藤本真由
(舞台評論家・ふじもとまゆ)
1972年生まれ。
東京大学法学部卒業後、新潮社に入社。写真週刊誌「FOCUS」の記者として、主に演劇・芸能分野の取材に携わる。
2001年退社し、フリーに。演劇を中心に国内はもとより海外の公演もインタビュー・取材を手がける。
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宝塚
11時の部観劇。宝塚歌劇において上演するにはなかなかに難しい題材の作品を、キャストが力演してよく通した!
今宵は、これにて。
今宵は、これにて。
2021-12-01 23:35 この記事だけ表示
24日13時半の部観劇。演出家の愛あふれる二本立てで、礼真琴&舞空瞳率いる星組、勢いよく成長中。『柳生忍法帖』は、主人公柳生十兵衛役の礼に与えられた楽曲がどれもとてもかっこよく(作曲:太田健)、作・演出の大野拓史が思いをこめて書いた言葉が礼の伸びやかな歌声によって歌われるとき、聴く者の心深くに刺さる。荒唐無稽な物語ゆえ、芦名銅伯役の愛月ひかるがいかに荒唐無稽な怪演を見せるかが舞台の鍵を握っている。『モアー・ダンディズム!』(作・演出:岡田敬二)では、「ミッション」の場面はじめ、礼と舞空、踊れる二人によるデュエット・ダンスに見応えがあり、素敵なトップコンビになっていっているな…と実感。「ハード・ボイルド」の場面で礼が「♪胸の傷が痛い痛い〜」と歌う様に、星組男役トップスターの系譜を確かに感じる瞬間があった。「ラ・パッション!」を歌う瀬央ゆりあのパッション全開のはじけっぷりに、昭和のスターの香りあり。男役陣も娘役陣も個性が次第に見えてきた!
2021-11-24 21:03 この記事だけ表示
宝塚のトップコンビって、いいな。改めてそうしみじみと思わせてくれるのが、雪組新トップコンビ、彩風咲奈&朝月希和の二人である。二人の人間が組んで一つのものを作り出して見せることのすばらしさを教えてくれる。
お披露目作となったのは、北条司の人気漫画の舞台化『CITY HUNTER−盗まれたXYZ−』と、エネルギッシュなショー『Fire Fever!』。それぞれの演出家の奮闘もあいまって、観終わった後、…宝塚ってなんて楽しいんだろう! と感じ、そして、携わるすべての人々への敬意が強く湧き上がってくる二本立てである。
彩風は雪組育ちで入団15年目。朝月は花組と雪組とで育った入団12年目で、娘役トップ就任年次としては渚あきの入団14年目に次ぐベテラン――元星組トップコンビ、香寿たつき&渚あきも次々とヒット作を出した二人だった。長く研鑽を積んできただけあって、朝月は娘役芸に秀で、かつ、彩風のやりたいこと、動きをよく見極めた上で相手役を務めている。コンビを組んで力倍増! である。さまざまににぎやかな展開のうちに、冴羽獠と槇村香の二人が、互いの存在、二人のパートナーシップあってこその“シティハンター”だとお互いに確認し合っていく、そんな作品が新トップコンビのお披露目作に当たったことを、観客として大いに喜びたい。始まる前に懸念されていた獠のお約束「モッコリ」は「ハッスル」と言い換えられ、そこに香が100tハンマーを振り下ろす展開はそのままに、1989年の新宿に生きる人々が織り成す物語は宝塚の舞台に成立することとなった。『CITY HUNTER』の作・演出を手がけた齋藤吉正と私の夫は同い年だが、夫もこの作品の宝塚化を長年夢見ていたものの、「モッコリ」のハードルの高さゆえに…無理だろうな…と思っていたとか。男たちの夢、ここに叶う。――一つ思ったのは、「ハッスル」と言い換えられたことにより、共感できるところが増したということである。惚れた相手にいいところを見せたいがために「ハッスル」する気持ちならば、自分にだってある。彩風が言う、「俺はね、べっぴんさんからと、この心が震えたときだけしか依頼は受けない主義でね」なる獠のセリフに、「GET WILD」のイントロがかぶさり、そのまま銀橋に出て行って、華麗なハンド・アクションと共にこの『CITY HUNTER』とは切っても切り離せない曲を歌うとき、――観る者の心も震える。宝塚の男役に似合うキャラクターなのである。彩風は、かつて『るろうに剣心』(2016)の斎藤一役でも「悪即斬」のセリフをかっこよく決めて魅了した。超絶スタイルを大いに生かして、漫画やアニメの具現化は得意である。
そんな彩風演じる獠に対する朝月の槇村香と言えば。――1989年当時、ティーンエイジャーとして新宿の街を闊歩していたかつての自分を思い出すようで、胸がキュンとした。香のようにボーイッシュではなかったけれども、大人になる一歩手前のところで、大人の女性に憧れ、背伸びしたい気持ちがあった。朝月の演技はそんなちょっと甘酸っぱい思い出を思い起こさせてくれる。のびのび自由に言いたいことを言って、100tハンマーを振り回して、物言いだって決してお行儀よくはなくて、そんなところが生き生きとしてとてもかわいらしい。宝塚の舞台で娘役がこういったボーイッシュな役どころを演じるというのは、相手が女性であるだけに難しいことであると思う。けれども朝月は、積み重ねてきた芸を生かし、素の女性としてではなく、あくまで娘役としてこの役を成立させている。ショー作品『Fire Fever!』での活躍についても言えるところなのだけれども、朝月希和は、「ここまでなら男役のかっこよさを侵食しない」というぎりぎりのきわを狙って芸を炸裂させることのできる娘役である。
今回、新人公演が初めて配信され、本公演で海坊主役を快演している縣千が主演に挑んだ――海坊主役では大いにコメディセンスを発揮、そして、歩き方からして巨漢の男性にしか見えない! 縣の演じる冴羽獠には、自己陶酔と自己憐憫とが共存し、女性に「ハッスル」する自分を自分自身でどこか冷ややかに見ているようなハードボイルドな魅力があった。そして、配信視聴後、改めて本公演を観て、彩風の獠と朝月の香との関係性が絶妙なバランスの上に成り立っていることにも気づかされた。彩風の冴羽には、不器用すぎて、優しすぎて、自分の本当の気持ちも言い出せないような、そんな弱さがある。そんな彩風の獠あってこそ、朝月の香があれだけポンポン言うところが魅力的に見える。二人で組んだ姿が素敵に見えてこそのトップコンビなのだということに、改めて深く思い至った。
今年、歌舞伎座は、片岡仁左衛門と坂東玉三郎の「仁左・玉」コンビをたびたび観る機会があり、そのたび、二人の至上のパートナーシップに感じ入るばかりである。あるとき、観ていて、玉三郎が、仁左衛門を輝かせ、その輝きを浴びて自分もさらに輝くということを実現している、これぞ究極の娘役芸…と思った。その上で彩風・朝月の「さききわ」コンビにふれて、私は、二人の人間が組んで芸を見せるということの意味をもっと深く観てとらえて分析したいと思った。「究極の娘役芸」と感じたとき、私は玉三郎の芸に着目していたけれども、玉三郎にそのような芸を発揮させる仁左衛門の芸についてもきちんととらえて考えないと、コンビの見方としてはまだまだである…と感じたのである。それで、日本人スケーターの活躍で今ますます注目されるフィギュアスケートのペアとアイスダンスというカップル競技も観ることで、「二人」についての考察を深めたいと考えた。「さききわ」コンビにもこれからますます頑張っていって欲しい。
それにしても『CITY HUNTER』はにぎやかな舞台である。ちょっと要素を詰め込み過ぎのようにも感じるけれども、それだからこそ雪組生たちの大暴れを楽しめているところもあり…。難しいところである。齋藤吉正はかつて雪組公演『タカラヅカ・ドリーム・キングダム』(2004〜2005)でも「新宿」の場面をスタイリッシュに展開、昨年の雪組公演『NOW! ZOOM ME!!』でもバブル期の曲と文化を取り上げている。私自身がリアルタイムで体験していた諸風俗が、とある時代を象徴する文化となっていっているおもしろさを、『NOW! ZOOM ME!!』と『CITY HUNTER』の二作品で体感した。いわゆるバブル期を謳歌していた世代は私より少し年上で、私は少女としてそんな人々の背中を見ていたわけだけれども、女性が己の欲望に素直に生きる、欲望の客体になるばかりではなく自らが欲望の主体となる、そんな意識がますます広がっていった時代だったように思う。そして、『NOW! ZOOM ME!!』を経ての『CITY HUNTER』で、そんな能動的な女性たちを演じて、充実の雪組娘役陣が舞台狭しと暴れまくる。ミニスカートからすらり伸びた美脚、その魅力で獠をたびたび誘惑しては危険な仕事をさせる警視庁刑事野上冴子役の彩みちる。女性の目から見ても嫌味のない色っぽさで、父である警視総監(奏乃はると)から押し付けられた縁談には目もくれず、仕事に生きる女。颯爽としていてかっこいい! 彩は明日付で月組に組替えとなるが、月組娘役陣に加わって娘役芸を炸裂させてくれるであろうことが非常に楽しみである。“シティハンター”マニアのフリージャーナリスト冬野葉子を演じた野々花ひまりも、オフビートなキャラクターを個性的な声で造形し、大いに魅力を発揮する。飲んだくれシーンもキュートな限り。葉子が「あんたが本物のCITY HUNTERだったら結婚してあげてもいいわよ♡いいわよ♡いいわよ♡いいわよ♡(エコー)」と言い、そこにスタイリスティックスの「愛がすべて」が重なる、まさに脳内お花畑を具現化したようなLEDパネルスクリーン上のシーンは最高にバカバカしいおもしろさにあふれている。冴子の妹麗香を演じた希良々うみの過剰なまでにあふれ出る個性も実に印象的。
大女優宇都宮乙役の千風カレンが最初に着用する衣装には、…こういう服、母が小田急百貨店新宿店で買って着ていたな…と。香が着用するボーダーのTシャツ等、あの時代のファッションを今のセンスで再構築した加藤真美の衣装が光る。また、今回、「GET WILD」をはじめとするアニメ版からの曲を使用、ロックバンドSHISHAMOの宮崎朝子からは美しいバラード「WONDERLAND」の提供を受け、そこにオリジナル曲が加わる、音楽構成的にも欲張りな内容となっている。なかでも時代を知る者として大受けしてしまったのが、杏野このみ扮する美人ママの店、ショーパブ「ねこまんま」でのショー・シーンで流れる曲。石井明美の1986年のヒット曲「CHA-CHA-CHA」、そして森川由加里の1987年のヒット曲「SHOW ME」を重ねて歌ってみると、見事フィットするのである。ミュージカル『ウェディング・シンガー』でもなされていたような本歌取りが非常に楽しかった。作品冒頭の砂漠のシーンも、音楽共々、演出家の大劇場デビュー作『BLUE・MOON・BLUE−月明かりの赤い花−』を思わせて。
なお、LEDパネルスクリーン上、たびたび「YOUR CITY」の広告が映るが、これは、今は「ルミネエスト新宿」となった「MY CITY」のもじりであろう。映画『ローマの休日』でアン王女がスペイン広場の階段で頬張っていたジェラート屋ジョリッティは、新宿では、地下道からかつての「MY CITY」へと上がる階段の近くにあるわけである。ちなみに私は子供のころ、地下道のその近くで、映画『クヒオ大佐』の主人公のモデルとなった人物と思しき男性が女連れで歩いているのを見たことがある。混沌として猥雑なパワーあふれる街、新宿。少女のころ、一つ年上の演出家と、街のどこかですれ違っていたのかもしれない…と思った。
『Fire Fever!』(作・演出:稲葉太地)は、組の体制が変わったことを大いに印象付けるショーである。彩風咲奈をセンターに、70人ものメンバーが大ラインダンスを繰り広げるシーンは見応えがあるが、惜しむらくは、ここのシーンも、そして中詰の銀橋渡りも、帽子が多用されていて雪組生の顔が見えないこと。また、オープニングのトップコンビの衣装も布の分量が多すぎ、せっかくのリフトがあまり映えないような印象を受けた。「Fire Bird」の場面での朝月の語るようなダンスは見どころ。また、縣が芯を務めて若手たちが踊りまくる「New Fire」の場面はエネルギー炸裂!
今回の公演で卒業の沙月愛奈は、『CITY HUNTER』では「こんなん出ましたけど」とたびたび笑いを誘ってくる“新宿の婆”役――人気占い師の“新宿の母”と、宝塚出身の占い師泉アツノを合体させたようなキャラクターである。キュートな愛嬌を発揮し、ラストのクリスマスイブの場面ではクリスマス・ツリーのかぶりものまで着用! 『Fire Fever!』のスパニッシュの場面では、雪組の舞台を長年支えてきた名ダンサーぶりで大いに魅せる。後ろ向きで、長いスカートを客席に向けて颯爽とさばく、そのあまりのかっこよさ。娘役としての心意気が炸裂する瞬間である。彼女が踊っている姿を観るとき、その四肢によって揺さぶられ、切り開かれる空気を感じるのが好きだった。かっこいいのにほんわかしていて、まさに雪組娘役の魅力。海坊主のフィアンセ美樹を演じた星南のぞみも、しっとりとした女性の魅力を漂わせつつも、海坊主に銃を向けるところでは元傭兵らしいきりっとした迫力にせつなさ、いじらしさがにじみ、雪組娘役魂ここにありというところを見せた。
『CITY HUNTER』ゆえ、かなりおもしろい役どころで退団することとなった雪組生も。橘幸は、腰を曲げてのおじいちゃん教授役でコミカルな味を大いに発揮。その助手名取かずえ役の華蓮エミリは、しょっちゅうお尻をさわられても動じないクールビューティぶり。グジャマラ王国のエラン・ダヤン王子役の汐聖風美はLEDパネルスクリーンで顔がドアップに。そして、ヤクザの手下南敦役の望月篤乃。刺されての死に際に発する、「義理人情に憧れて叩いた劔会の門、けど鶴田浩二も高倉健もいなかった」というセリフが何度聞いてもおかしく、…でも、人が死ぬのに笑っていいんだろうか〜…といつも悩んだ。宝塚最後の日もみんなHAPPYな舞台を!
お披露目作となったのは、北条司の人気漫画の舞台化『CITY HUNTER−盗まれたXYZ−』と、エネルギッシュなショー『Fire Fever!』。それぞれの演出家の奮闘もあいまって、観終わった後、…宝塚ってなんて楽しいんだろう! と感じ、そして、携わるすべての人々への敬意が強く湧き上がってくる二本立てである。
彩風は雪組育ちで入団15年目。朝月は花組と雪組とで育った入団12年目で、娘役トップ就任年次としては渚あきの入団14年目に次ぐベテラン――元星組トップコンビ、香寿たつき&渚あきも次々とヒット作を出した二人だった。長く研鑽を積んできただけあって、朝月は娘役芸に秀で、かつ、彩風のやりたいこと、動きをよく見極めた上で相手役を務めている。コンビを組んで力倍増! である。さまざまににぎやかな展開のうちに、冴羽獠と槇村香の二人が、互いの存在、二人のパートナーシップあってこその“シティハンター”だとお互いに確認し合っていく、そんな作品が新トップコンビのお披露目作に当たったことを、観客として大いに喜びたい。始まる前に懸念されていた獠のお約束「モッコリ」は「ハッスル」と言い換えられ、そこに香が100tハンマーを振り下ろす展開はそのままに、1989年の新宿に生きる人々が織り成す物語は宝塚の舞台に成立することとなった。『CITY HUNTER』の作・演出を手がけた齋藤吉正と私の夫は同い年だが、夫もこの作品の宝塚化を長年夢見ていたものの、「モッコリ」のハードルの高さゆえに…無理だろうな…と思っていたとか。男たちの夢、ここに叶う。――一つ思ったのは、「ハッスル」と言い換えられたことにより、共感できるところが増したということである。惚れた相手にいいところを見せたいがために「ハッスル」する気持ちならば、自分にだってある。彩風が言う、「俺はね、べっぴんさんからと、この心が震えたときだけしか依頼は受けない主義でね」なる獠のセリフに、「GET WILD」のイントロがかぶさり、そのまま銀橋に出て行って、華麗なハンド・アクションと共にこの『CITY HUNTER』とは切っても切り離せない曲を歌うとき、――観る者の心も震える。宝塚の男役に似合うキャラクターなのである。彩風は、かつて『るろうに剣心』(2016)の斎藤一役でも「悪即斬」のセリフをかっこよく決めて魅了した。超絶スタイルを大いに生かして、漫画やアニメの具現化は得意である。
そんな彩風演じる獠に対する朝月の槇村香と言えば。――1989年当時、ティーンエイジャーとして新宿の街を闊歩していたかつての自分を思い出すようで、胸がキュンとした。香のようにボーイッシュではなかったけれども、大人になる一歩手前のところで、大人の女性に憧れ、背伸びしたい気持ちがあった。朝月の演技はそんなちょっと甘酸っぱい思い出を思い起こさせてくれる。のびのび自由に言いたいことを言って、100tハンマーを振り回して、物言いだって決してお行儀よくはなくて、そんなところが生き生きとしてとてもかわいらしい。宝塚の舞台で娘役がこういったボーイッシュな役どころを演じるというのは、相手が女性であるだけに難しいことであると思う。けれども朝月は、積み重ねてきた芸を生かし、素の女性としてではなく、あくまで娘役としてこの役を成立させている。ショー作品『Fire Fever!』での活躍についても言えるところなのだけれども、朝月希和は、「ここまでなら男役のかっこよさを侵食しない」というぎりぎりのきわを狙って芸を炸裂させることのできる娘役である。
今回、新人公演が初めて配信され、本公演で海坊主役を快演している縣千が主演に挑んだ――海坊主役では大いにコメディセンスを発揮、そして、歩き方からして巨漢の男性にしか見えない! 縣の演じる冴羽獠には、自己陶酔と自己憐憫とが共存し、女性に「ハッスル」する自分を自分自身でどこか冷ややかに見ているようなハードボイルドな魅力があった。そして、配信視聴後、改めて本公演を観て、彩風の獠と朝月の香との関係性が絶妙なバランスの上に成り立っていることにも気づかされた。彩風の冴羽には、不器用すぎて、優しすぎて、自分の本当の気持ちも言い出せないような、そんな弱さがある。そんな彩風の獠あってこそ、朝月の香があれだけポンポン言うところが魅力的に見える。二人で組んだ姿が素敵に見えてこそのトップコンビなのだということに、改めて深く思い至った。
今年、歌舞伎座は、片岡仁左衛門と坂東玉三郎の「仁左・玉」コンビをたびたび観る機会があり、そのたび、二人の至上のパートナーシップに感じ入るばかりである。あるとき、観ていて、玉三郎が、仁左衛門を輝かせ、その輝きを浴びて自分もさらに輝くということを実現している、これぞ究極の娘役芸…と思った。その上で彩風・朝月の「さききわ」コンビにふれて、私は、二人の人間が組んで芸を見せるということの意味をもっと深く観てとらえて分析したいと思った。「究極の娘役芸」と感じたとき、私は玉三郎の芸に着目していたけれども、玉三郎にそのような芸を発揮させる仁左衛門の芸についてもきちんととらえて考えないと、コンビの見方としてはまだまだである…と感じたのである。それで、日本人スケーターの活躍で今ますます注目されるフィギュアスケートのペアとアイスダンスというカップル競技も観ることで、「二人」についての考察を深めたいと考えた。「さききわ」コンビにもこれからますます頑張っていって欲しい。
それにしても『CITY HUNTER』はにぎやかな舞台である。ちょっと要素を詰め込み過ぎのようにも感じるけれども、それだからこそ雪組生たちの大暴れを楽しめているところもあり…。難しいところである。齋藤吉正はかつて雪組公演『タカラヅカ・ドリーム・キングダム』(2004〜2005)でも「新宿」の場面をスタイリッシュに展開、昨年の雪組公演『NOW! ZOOM ME!!』でもバブル期の曲と文化を取り上げている。私自身がリアルタイムで体験していた諸風俗が、とある時代を象徴する文化となっていっているおもしろさを、『NOW! ZOOM ME!!』と『CITY HUNTER』の二作品で体感した。いわゆるバブル期を謳歌していた世代は私より少し年上で、私は少女としてそんな人々の背中を見ていたわけだけれども、女性が己の欲望に素直に生きる、欲望の客体になるばかりではなく自らが欲望の主体となる、そんな意識がますます広がっていった時代だったように思う。そして、『NOW! ZOOM ME!!』を経ての『CITY HUNTER』で、そんな能動的な女性たちを演じて、充実の雪組娘役陣が舞台狭しと暴れまくる。ミニスカートからすらり伸びた美脚、その魅力で獠をたびたび誘惑しては危険な仕事をさせる警視庁刑事野上冴子役の彩みちる。女性の目から見ても嫌味のない色っぽさで、父である警視総監(奏乃はると)から押し付けられた縁談には目もくれず、仕事に生きる女。颯爽としていてかっこいい! 彩は明日付で月組に組替えとなるが、月組娘役陣に加わって娘役芸を炸裂させてくれるであろうことが非常に楽しみである。“シティハンター”マニアのフリージャーナリスト冬野葉子を演じた野々花ひまりも、オフビートなキャラクターを個性的な声で造形し、大いに魅力を発揮する。飲んだくれシーンもキュートな限り。葉子が「あんたが本物のCITY HUNTERだったら結婚してあげてもいいわよ♡いいわよ♡いいわよ♡いいわよ♡(エコー)」と言い、そこにスタイリスティックスの「愛がすべて」が重なる、まさに脳内お花畑を具現化したようなLEDパネルスクリーン上のシーンは最高にバカバカしいおもしろさにあふれている。冴子の妹麗香を演じた希良々うみの過剰なまでにあふれ出る個性も実に印象的。
大女優宇都宮乙役の千風カレンが最初に着用する衣装には、…こういう服、母が小田急百貨店新宿店で買って着ていたな…と。香が着用するボーダーのTシャツ等、あの時代のファッションを今のセンスで再構築した加藤真美の衣装が光る。また、今回、「GET WILD」をはじめとするアニメ版からの曲を使用、ロックバンドSHISHAMOの宮崎朝子からは美しいバラード「WONDERLAND」の提供を受け、そこにオリジナル曲が加わる、音楽構成的にも欲張りな内容となっている。なかでも時代を知る者として大受けしてしまったのが、杏野このみ扮する美人ママの店、ショーパブ「ねこまんま」でのショー・シーンで流れる曲。石井明美の1986年のヒット曲「CHA-CHA-CHA」、そして森川由加里の1987年のヒット曲「SHOW ME」を重ねて歌ってみると、見事フィットするのである。ミュージカル『ウェディング・シンガー』でもなされていたような本歌取りが非常に楽しかった。作品冒頭の砂漠のシーンも、音楽共々、演出家の大劇場デビュー作『BLUE・MOON・BLUE−月明かりの赤い花−』を思わせて。
なお、LEDパネルスクリーン上、たびたび「YOUR CITY」の広告が映るが、これは、今は「ルミネエスト新宿」となった「MY CITY」のもじりであろう。映画『ローマの休日』でアン王女がスペイン広場の階段で頬張っていたジェラート屋ジョリッティは、新宿では、地下道からかつての「MY CITY」へと上がる階段の近くにあるわけである。ちなみに私は子供のころ、地下道のその近くで、映画『クヒオ大佐』の主人公のモデルとなった人物と思しき男性が女連れで歩いているのを見たことがある。混沌として猥雑なパワーあふれる街、新宿。少女のころ、一つ年上の演出家と、街のどこかですれ違っていたのかもしれない…と思った。
『Fire Fever!』(作・演出:稲葉太地)は、組の体制が変わったことを大いに印象付けるショーである。彩風咲奈をセンターに、70人ものメンバーが大ラインダンスを繰り広げるシーンは見応えがあるが、惜しむらくは、ここのシーンも、そして中詰の銀橋渡りも、帽子が多用されていて雪組生の顔が見えないこと。また、オープニングのトップコンビの衣装も布の分量が多すぎ、せっかくのリフトがあまり映えないような印象を受けた。「Fire Bird」の場面での朝月の語るようなダンスは見どころ。また、縣が芯を務めて若手たちが踊りまくる「New Fire」の場面はエネルギー炸裂!
今回の公演で卒業の沙月愛奈は、『CITY HUNTER』では「こんなん出ましたけど」とたびたび笑いを誘ってくる“新宿の婆”役――人気占い師の“新宿の母”と、宝塚出身の占い師泉アツノを合体させたようなキャラクターである。キュートな愛嬌を発揮し、ラストのクリスマスイブの場面ではクリスマス・ツリーのかぶりものまで着用! 『Fire Fever!』のスパニッシュの場面では、雪組の舞台を長年支えてきた名ダンサーぶりで大いに魅せる。後ろ向きで、長いスカートを客席に向けて颯爽とさばく、そのあまりのかっこよさ。娘役としての心意気が炸裂する瞬間である。彼女が踊っている姿を観るとき、その四肢によって揺さぶられ、切り開かれる空気を感じるのが好きだった。かっこいいのにほんわかしていて、まさに雪組娘役の魅力。海坊主のフィアンセ美樹を演じた星南のぞみも、しっとりとした女性の魅力を漂わせつつも、海坊主に銃を向けるところでは元傭兵らしいきりっとした迫力にせつなさ、いじらしさがにじみ、雪組娘役魂ここにありというところを見せた。
『CITY HUNTER』ゆえ、かなりおもしろい役どころで退団することとなった雪組生も。橘幸は、腰を曲げてのおじいちゃん教授役でコミカルな味を大いに発揮。その助手名取かずえ役の華蓮エミリは、しょっちゅうお尻をさわられても動じないクールビューティぶり。グジャマラ王国のエラン・ダヤン王子役の汐聖風美はLEDパネルスクリーンで顔がドアップに。そして、ヤクザの手下南敦役の望月篤乃。刺されての死に際に発する、「義理人情に憧れて叩いた劔会の門、けど鶴田浩二も高倉健もいなかった」というセリフが何度聞いてもおかしく、…でも、人が死ぬのに笑っていいんだろうか〜…といつも悩んだ。宝塚最後の日もみんなHAPPYな舞台を!
2021-11-14 01:43 この記事だけ表示
『柳生忍法帖』のラストの柳生十兵衛のセリフがかっこよすぎて! そして、『モアー・ダンディズム!』はダンディズム・シリーズ第三弾ということで何だかあちこち懐かしく。やはり盛り上がる「キャリオカ」の場面――このシーン含め、舞空瞳、音波みのりの娘役芸を堪能。礼真琴をはじめ、星組男役陣が男役を楽しめるようになってきていることにホッ。“モアー”と銘打っているからには男役のダンディズムをますます追求していってほしいところ。愛月ひかるサヨナラショーでは、初舞台作品『シークレット・ハンター』の主題歌を久しぶりに聴き、改めて…いい歌だな…と。東京でお待ちしています!
2021-11-01 23:00 この記事だけ表示
展開にドキドキ。堀一族の女たちのりりしい戦いの姿に、涙。そして、怪演多し。
2021-11-01 14:42 この記事だけ表示
星組宝塚大劇場公演『柳生忍法帖』『モアー・ダンディズム!』千秋楽ライブ配信観ます。
2021-11-01 12:27 この記事だけ表示
月城かなと&海乃美月、月組新トップコンビが息をしっかり合わせて好スタートを切った月組博多座公演『川霧の橋』『Dream Chaser−新たな夢へ−』ライブ配信についてはまたゆっくり書きます。新生月組の雰囲気がとても温かい!
2021-10-30 23:07 この記事だけ表示
大火シーンの緊迫感! 月組新トップスター月城かなとの、人としての温かな誠実さにじむセリフと歌に心打たれた!
2021-10-30 17:44 この記事だけ表示
月組博多座公演『川霧の橋』『Dream Chaser−新たな夢へ−』ライブ配信観ます。
2021-10-30 14:22 この記事だけ表示
入団8年目の風間柚乃、ジャズの名曲に彩られた作品で堂々の宝塚バウホール公演初主演である。演じるは、自由を求め、ユダヤ人の娘と共にナチス政権下のベルリンからパリへ逃亡、さらにはカナダへと渡ることとなるジャズ・ピアニスト、ルーカス。幕開き、…若返った! と思った――なんせ、『チェ・ゲバラ』(2019)で、29期上の轟悠が扮したタイトルロール相手に、年上のフィデル・カストロ役を演じ切った人であるからして。今回の役どころでは、たっぷりとしたクラシックな男役の香りが漂い、甘い魅力もあるところを証明。きよら羽龍演じるヒロインに対しても包容力を発揮した。ジャズへの愛ゆえに、そして、自由を希求するその心ゆえに、主人公はベルリンでもパリでもカナダでも周りの人々に良き影響を与え、そして人々に自然助けられる。入団8年目の初主演作としては多分に意欲的な作品である。ラスト近く、離れ離れになったヒロインに会うため、雪の森を一人歩く風間ルーカスは、数分間にわたり、これまで助け、支えてくれた人々への思いをこめた絶唱を聴かせる――作・演出の谷正純が、男役・風間柚乃への期待をこめて書いた歌詞である。その歌詞を涙ながらに歌う風間は、初めてバウ公演のセンターを経験したことで理解した、主演という立場の重責と喜びとをかみしめていた…。周囲の人々が寄せてくれる思い、演技を受け止め、演技で返していくこと。早くから芝居巧者として知られてきたけれども、今回の舞台で殻を破った感がある――そして、歌いながらさらに若返っていったのだった。欲を言えば、主人公は親を亡くすなどつらい思いをしてきたわけで、終始絶やさぬ微笑みの陰に屈折や哀しみや翳りも感じさせたいところ。それが加われば鬼に金棒。
カナダの地でルーカスと出会い、彼の自由への逃走を支え、励ます“教授”役の汝鳥伶がかっこよすぎる! 帽子のかぶり方も粋な限り。歌も多く、魅惑の低音を堪能。風間とのデュエットで感じさせる素敵な包容力。そして、フィナーレ幕開きを飾る「スターダスト」の歌唱はダンディの極みで、すべてをゆだねて、ただしっとりと寄り添って揺れていたい気持ち。汝鳥伶の歌声とセリフに包まれ、酔いしれる至福。
二役を演じた千海華蘭が、年齢を自由自在に操る芸を発揮。ジャズに乗ってのダンス・シーンでは、肩の力が抜けた洒脱な踊りを披露――ちょっとした手足の動きが、霧矢大夢の粋を思い出させて。ナチスの軍人が来た! とあわてて着替えるドイツ民族衣装姿もキュート。笑顔の奥にニヒルさを感じさせた紫門ゆりや。朝霧真のヒゲ役の凄み。礼華はるはナチスの少尉を憎々しげに熱演。ナチスの内通者を演じた真弘蓮の芝居心に唸った。
カナダの地でルーカスと出会い、彼の自由への逃走を支え、励ます“教授”役の汝鳥伶がかっこよすぎる! 帽子のかぶり方も粋な限り。歌も多く、魅惑の低音を堪能。風間とのデュエットで感じさせる素敵な包容力。そして、フィナーレ幕開きを飾る「スターダスト」の歌唱はダンディの極みで、すべてをゆだねて、ただしっとりと寄り添って揺れていたい気持ち。汝鳥伶の歌声とセリフに包まれ、酔いしれる至福。
二役を演じた千海華蘭が、年齢を自由自在に操る芸を発揮。ジャズに乗ってのダンス・シーンでは、肩の力が抜けた洒脱な踊りを披露――ちょっとした手足の動きが、霧矢大夢の粋を思い出させて。ナチスの軍人が来た! とあわてて着替えるドイツ民族衣装姿もキュート。笑顔の奥にニヒルさを感じさせた紫門ゆりや。朝霧真のヒゲ役の凄み。礼華はるはナチスの少尉を憎々しげに熱演。ナチスの内通者を演じた真弘蓮の芝居心に唸った。
2021-10-18 23:59 この記事だけ表示