東京宝塚劇場の本公演は観ることができなかったが、昨年12月13日の宝塚大劇場公演千秋楽ライブ配信、そして今年1月3日にNHK BSプレミアムで放送された『The Fascination!』(12月の宝塚大劇場公演の収録)は観ることができた。
 “忠臣蔵ファンタジー”なる角書の『元禄バロックロック』(作・演出:谷貴矢)は、我々が知るところの江戸とは異なり、鎖国をせず独自発展を遂げた国際都市エドを舞台に展開される作品。『忠臣蔵』の物語に、ウィリアム・シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』や『十二夜』、井上ひさしの『ムサシ』等のエッセンスが取り入れられている。いきなり種明かしをするけれども、この物語において、赤穂浪士による仇討ちは果たされない。討ち入りの途中で、天正遣欧少年使節を彷彿とさせる姿の少年将軍ツナヨシ(娘役の音くり寿が怪演)によって、赤穂方とコウズケノスケ(水美舞斗)は和解させられ、ラストでいきなり登場するタクミノカミそっくりのその弟(聖乃あすかが、“思念体”として舞台に登場してナレーター的役割を果たすタクミノカミと二役で演じる)を中心とした赤穂藩の再興が認められることとなる。作中、…お侍さんたち、復讐するんじゃなかったのか…という町人のツッコミに対し、「もしかしたら、そうなる筋もあったかもね。でもあたしはこの結末も好きだよ」なるセリフまでちゃんと用意されている。巧みなのは、これは“ファンタジー”であり、我々が知るところの江戸とは異なるエドで展開される物語であるという設定がなされているところである。そのような設定をした上で、『忠臣蔵』について改めて考えてみようとの試み。谷貴矢、チャレンジャーである。そして、花組新トップコンビ柚香光と星風まどかが演じるのは、赤穂藩の時計職人クロノスケと、コウズケノスケの隠し子キラで、『ロミオとジュリエット』の如く敵同士で恋に落ちる。キーアイテムとなっているのが、赤穂藩主にして天才科学者でもあったタクミノカミが研究を重ねて設計図を残した、時を巻き戻せる時計。この時計を使い、同じ一年を何度も何度もやり直して、討ち入りして果てるクロノスケの運命を変えようとあがくキラ――最終的には、その運命は、時計の力なしに変わるわけだが。ぶっ飛んでいて、けれども宝塚らしい華やかさもあり。タイトルの『元禄バロックロック』からして“クロック”の語が入っており、口で何度も転がしてみると響きが楽しく。谷貴矢の今後の奇想天外に期待。
 『The Fascination!』(作・演出:中村一徳)は花組誕生100周年を記念したショーで、花組が過去に上演した名作群へのオマージュ・シーンも。2月7日付で専科に異動する高翔みずきをはじめ、美風舞良、和海しょう、羽立光来といった歌える面々が銀橋を渡っての歌唱の場面を与えられていたのが聴き応えあり。柚香光と星風まどか、踊れるトップコンビのデュエット・ダンスは共に薄い緑色の衣装で、星風のドレスの裾のフリルがリフトの際にも非常に綺麗に映えて。そして、二人とも、花組カラーのピンクがよく似合う。コンビのこれからが大いに楽しみである。
 トップ娘役としてのキャリアも豊富な星風が組替えしてきたことによって娘役陣が一層活性化した感があり、『元禄バロックロック』ではクラノスケ(永久輝せあ)の妻リクを終始仏頂面で演じた華雅りりかも強い印象を残した。そして、芝居、ショー共、星空美咲の活躍が光った。

 鞠花ゆめは、まだまだ花組の舞台で活躍を見せてくれる人だと思っていただけに、退団が本当に残念である。『元禄バロックロック』で演じる町人のアヤメは、先に引用したセリフも含め、作者の思いがかなりストレートに託されていると感じられる言葉を話す役どころで、艶やかな魅力を見せていた。時を巻き戻せる時計の力の描写として、クロノスケがスリを捕まえるシーンがたびたび登場するのだが、このときいつもスラレている女性、その名もスラレを演じたのが真鳳つぐみ。『The Fascination!』では柚香と水美のダンスに歌唱で花を添えた。最近、男役としていい仕事をしているなと思うことの多かった優波慧も退団である。『元禄バロックロック』ではヨシヤス役で落ち着いた演技を見せた。
2022-02-06 00:16 この記事だけ表示
 楽しさが加速していく感のあるショー! ジャズのスタンダード・ナンバーで綴る中詰が見応えあり。作・演出の三木章雄の月組でのヒット作『ジャズマニア』を思い出していたら、その主題歌も飛び出したのでした。
2022-01-31 23:42 この記事だけ表示
 月組のカラフルな個性はじける作品で、月城かなと&海乃美月の月組新トップコンビ、華麗にお披露目! 二人がしっとり紡ぎ上げる物語の結末が、いろいろな意味で胸に痛い…。さまざまな映画&宝塚作品のパロディが大変楽しく。鳳月杏扮する二枚目映画スターが撮影中の映画のミュージカル・シーンに大爆笑。
2022-01-31 14:46 この記事だけ表示
 月組宝塚大劇場公演『今夜、ロマンス劇場で』『FULL SWING!』千秋楽ライブ配信観ます。観終わってしみじみ泣いてしまった『鎌倉殿の13人』についてはちょっと寝かせます。
2022-01-30 23:33 この記事だけ表示
 ウィリアム・シェイクスピアの『から騒ぎ』を原作に、舞台を1950年代のアメリカのハイスクールに置き換えて描く1985年月組初演作品は、ロック・サウンド&50年代ファッションが楽しい青春物語。主人公ビリーを演じるのは、これが宝塚バウホール公演初主演の縣千。若手中心のメンバーが、シェイクスピアの世界に果敢に挑戦。
 誠実で温かみのある芝居を見せる縣。第二幕での、マーガレット役の妃華ゆきのとのポンポンとはずむ掛け合いが、シェイクスピアらしい台詞の応酬になっていた。オープニングからいかにも高校生らしいキュートさが光っていた妃華は、このシーンでコメディエンヌぶりを大いに発揮してみせた。シンディー役の夢白あやは張り切りぶりは大いに伝わってきたが、雪組育ちの縣もほんわかした男役であることだし、芝居やドレスさばきに、愛すみれや妃華が見せているような雪組娘役らしいふんわり感が欲しいところ。
 校長先生役の奏乃はるとの超越したおとぼけぶりに、何だか、『ロッキー・ホラー・ショー』のナレーターを連想し。袖からくるくる回転しながら登場し、客席&ライブ配信視聴者にツッコミを入れた愛すみれも、自分の世界に入りすぎの先生をほっこりとした風情で見せ、芸人ぶりでも魅了。ロッキー役の眞ノ宮るいの受け芝居も良し。ロバート役の彩海せらも誠実な芝居で、歌の高音がキュートなメアリー役の音彩唯とのカップルもかわいらしい。そして、ミリー役の華純沙那のしっとりした芝居がとてもいい。
 フィナーレの黒燕尾服シーンで、赤いバラをもって登場した縣。入団7年目にしてすでに男役として魅せる黒燕尾の踊りを展開できることが素晴らしい。そして、バックの男役陣も見事揃っていた! 若手の頑張りに、今後の雪組公演が大いに楽しみに。
2022-01-26 23:48 この記事だけ表示
 フィナーレの黒燕尾シーン、すごかった!
2022-01-25 23:54 この記事だけ表示
 ノリノリのオープニングに手拍子〜。娘役たちの50年代ファッションがかわいい。先生役の愛すみれに爆笑。
2022-01-25 15:47 この記事だけ表示
 雪組宝塚バウホール公演『Sweet Little Rock ’n’ Roll』千秋楽ライブ配信観ます。
2022-01-25 14:21 この記事だけ表示
 見応えのある作品が多く、戯曲が掲載されている雑誌「ル・サンク」を購入することの多かった2021年の宝塚歌劇。ベストは、上田久美子作・演出の月組『桜嵐記』。上田は二作続けてトップスターの退団作を担当したが、雪組『f f f−フォルティッシッシモ−〜歓喜に歌え!〜』も優れた作品だった。ショー・ジャンルのベストは、野口幸作が作・演出を担当した宙組『Délicieux!−甘美なる巴里−』。この作品でパリのスイーツをモチーフにしたスイートにかわいらしい衣装の数々を手がけた加藤真美は、続いての雪組『CITY HUNTER−盗まれたXYZ−』では80年代ファッションを今のセンスで見事舞台衣装に落とし込む手腕を発揮、スタッフ賞を贈りたい。
 2021年新人賞は二人。まずは、宙組トップ娘役に就任した潤花――雪組時代、『ハリウッド・ゴシップ』(2019)のヒロインを演じて胆力を見せたときから、授賞は時間の問題だと思っていた。声に魅力があり、大人っぽい芝居のできる人である。そして、きわめて素の女に近いギリギリのところで娘役を成立させている。…そこまでやって大丈夫なのか〜?! とドキドキするときもあるのだけれども、でも、芸の力でやはり娘役として見せているところは見事という他なく、そのドキドキのスリルが観る楽しみをさらに高めている。そして、前へ前へとひるまずぐいぐい攻めてくるその姿勢が、組に大いに活気をもたらしている――もちろん、そのすべてをドーンと受け止めている宙組トップスター真風涼帆の度量あってのことなのだけれども。ちょっと今までに観たことのないタイプの娘役なので、どこをどう伸ばしていったら舞台人としてさらに上に行けるのか、これから発見していくのが非常に楽しみ。2022年も破壊力満点の舞台を!
 二人目は、雪組の縣千。『CITY HUNTER−盗まれたXYZ−』『Fire Fever!』での大活躍で若手エースとして大いにアピールしてみせた。新人公演世代ながら男のやせ我慢を体現できるところがいい。今年退団した専科の轟悠の代表作にして最後の大劇場主演作『凱旋門』(2018)で新人公演主演を務めた経験も、今後ますます生きてくるのだろうと思う。
 続々と魅力的なトップコンビが誕生した2021年のMVPは、相手役スライドを乗り越え、主演を務めたすべての作品で当たり役を連発した宙組トップスター真風涼帆!
 攻めている作品が続くな…と、その意欲的な姿勢につくづく感じ入ることの多い宝塚歌劇団が、2022年も日本中の観客を楽しませてくれることを確信して。月組博多座公演『川霧の橋』『Dream Chaser−新たな夢へ−』(配信)、宙組東京建物 Brillia HALL公演『プロミセス、プロミセス』、宙組全国ツアー公演『バロンの末裔』『アクアヴィーテ!!〜生命の水〜』(配信)については年明けゆっくり書きます。
2021-12-29 23:29 この記事だけ表示
 楠木正成の遺児、楠木正行を主人公に据えた『桜嵐記』――月組東京宝塚劇場公演の千秋楽は本来2月14日だったが、コロナ禍で公演日程の見直しがあったため、8月15日となった。その前夜、作品についての文章を書きながら、さまざまな読み取り方のできる深い物語であると感じていた。そのときは、この公演をもって退団する月組トップスター珠城りょうへの餞として、宝塚歌劇団とそこに生きる人々の闘いに焦点を絞って書いた。
 そして、8月15日の千秋楽。
 ライブ配信を夫と観ていて、…何だかどうも、空気が、物語が、違う…と二人して感じていた。自分の内からではない、外から来る何らかの力から、…今日の焦点は別のところにある…と、目線を強制的に合わされていくような。
 そして、暁千星演じる後村上天皇が登場した。南朝の行く手に先のないことを知りつつも、戦をやめられない後村上天皇。
――!!!
 焦点がぐわんとそこに合わされるのを感じた。
「…今日、終戦記念日だったよね…」
 隣で夫がつぶやいた。本当に申し訳ないことだが、珠城りょうの退団に対する思いとコロナ感染状況に対する大きな不安とで、日付の意味が頭の中からすっかり抜け落ちていた。8月15日――1945年、昭和天皇による玉音放送によって、日本の歴史上、大きな意味をもつこととなった日。そして、楠木正成といえば、明治以降、戦前・戦中の日本において、忠臣の鑑として崇められた人物である。
 2021年8月15日――後半生を鎮魂に捧げた人の魂を思った。
2021-12-29 23:25 この記事だけ表示