振り返り映像での初演時のパフォーマンスも、そして今現在のパフォーマンスも、初演出演のレジェンドたち、すごい……とときに涙しながら観ており。そしてレジェンドたちと共に「愛あればこそ」を歌う『ベルサイユのばら』作・演出の植田紳爾(御年91歳)というスペシャルな瞬間が観られた! 久しぶりに『ベルサイユのばら』にふれて、いろいろと気づきあり。
 『ベルサイユのばら50〜半世紀の軌跡〜』東京公演千秋楽ライブ配信観ます。楽しみ。
 月組トップコンビ月城かなと&海乃美月の退団公演は、座付き作家の宛書の妙が味わえる芝居とレビューの二本立て。ヴィクトリア女王統治下、政治的宗教的陰謀渦巻くイギリスを舞台に、不思議な能力をもつ男女が心を通わせていく様を描く『Eternal Voice 消え残る想い』(作・演出=正塚晴彦)は、人生及び人間について示唆に富み、ぐっと引き込まれる、見応えのある作品。ときにダークな色合いなれど、人間存在に対する温かなまなざしからの笑いが織り込まれているのがいい。『Grande TAKARAZUKA 110!』(作・演出=中村一徳)は、宝塚歌劇110年の歴史と伝統をかみしめ、舞台に立つ人々の命の輝きを大切に守っていきたいとの演出家の真摯な思いを感じさせる、華やかなレビュー。どちらの作品も、座付き作家が出演者一人一人に心を寄せて創っていることがうかがえて。今日の舞台は、芝居の冒頭から月城かなとの客席に向ける思いが強く、熱く、そこに月組生たちと専科の高翔みず希、凛城きらの思いが加わって、実に熱気あふれるものだった。そして、……トップコンビって素敵だな……と思わせてくれる、月城かなと&海乃美月のパートナーシップ。
 祝・極美慎、覚醒――クライマックスの大熱唱で、この間の日曜日に家族で父のお墓参りをしたこと、11年前のその日に家族で父を看取ったときの弟の涙を思い出した――。小桜ほのかもよかった。スティルツ(高足)に乗って飄々とした演技を披露した巨人役の大希颯ほか、気になる存在もちらほら。星組、生き生き。

(5日15時の部、東急シアターオーブ)
 ダンシング・スター柚香光が、芝居&ショー(レビュー)の二本立てではなく、一本物公演で退団するんだ、と最初は思った。しかし、そこは小池修一郎である。『アルカンシェル〜パリに架かる虹〜』において、劇中劇の形でさまざまなレビュー・シーンを登場させた。柚香演じる劇場のスター・ダンサー、マルセル・ドーラン率いる黒燕尾服の紳士たちが華麗に登場するパリ・レビューの場面。マルセルがピエロ役を踊るダンス場面。「美しく青きドナウ」のウィンナ・ワルツ版とジャズ版。ラテン・ナンバー。ピアノを弾く場面もあり、観たかった柚香光が存分に観られる退団作となった。
 宝塚において、女性が男性を演じるにあたっては、踊りや動きにおいて可動域やニュアンスに制約がある。踊れる人であっても、一度その踊りを男役の型に添わせる必要がある。けれども、退団作において、柚香光はときに型から解き放たれたかのように踊り、それでいて、どんな瞬間も男役だった。
 そこまで到達したら、卒業なのである。
 ほぼずっとコロナ禍での花組トップスターの重責、本当にお疲れ様でした。コメディだって大いに行ける人である。今後に期待大!
 小池修一郎オリジナル作品らしい要素がありつつも、新たな展開の可能性も感じた『アルカンシェル〜パリに架かる虹〜』。ナチス・ドイツに占領されることとなったパリでレビュー劇場「アルカンシェル・ド・パリ」を守ろうとする人々の奮闘を描く中で、ナチス・ドイツ側の人物として、エンターテインメント、ジャズを愛する文化統制副官フリードリッヒ・アドラー(永久輝せあ)を配したことがその一因と思われる。そのアドラーと恋に落ちる劇場の歌手アネット役を、星空美咲が芯の通った女性として見せ、やわらかな雰囲気の永久輝と二人、次期トップコンビとしてのバランスのよさを感じさせた。物語の語り手イヴ・ゴーシュを演じた聖乃あすかは、作品の背景を伝えるセリフをわかりやすく発していた。劇場のスター歌手ジョルジュ役の綺城ひか理も、プライドと愛国心の間で揺れる役柄を演じて印象付けた。劇場のコメディアン、ペペ役の一樹千尋の無言の演技の雄弁さ。劇場街レジスタンスのリーダー、ギヨーム・ブラン役の紫門ゆりやの存在感。ナチス・ドイツの文化統制官コンラート・バルツァーは、小池オリジナル作品にたびたび登場する“ちょっとマッドな独裁者”の系譜にある役柄だが、輝月ゆうまが演じると、人物に対する批判をも含んだユーモアが感じられるのがおもしろい。その上官である総司令官オットー・フォン・シュレンドルフ役の羽立光来の風格。

 この公演をもって退団する星風まどか。
 『WEST SIDE STORY』のマリア。『アナスタシア』のアナスタシア。『元禄バロックロック』のキラ。心の中で、ひそかに“はりきりレディ”と呼んでいた。宝塚において、トップ娘役として、トップスターと一定期間コンビを組んで舞台を務めるということは、舞台人としてユニークな経験であると思う。はりきりレディがその経験を生かす場にめぐりあえることを願って。
 12月に退団を控えた星組トップ娘役舞空瞳のミュージック・サロン(ディナーショー)のライブ配信。ANJU(元花組トップスター安寿ミラ)振付のかっこいいタンゴのダンス場面からスタート、スリット入りのドレスにジャケットとハットの姿でキレよくさっそうと踊りまくる。娘役同士で組んで踊るのも新鮮。ボリュームのあるロングドレスで初舞台ロケットを再現したり、フリルもふんだんなやわらかな生地のドレスで『ME AND MY GIRL』主題曲のタップを踊ったり、それが見事成立するのも優雅な足さばき、ドレスさばきあればこそ。腕のちょっとした振りなどにも細やかな工夫が盛り込まれていて、動きの質が素晴らしい。これまで出演してきた作品の曲の歌唱にも熟成を感じた。舞空含め、出演者5人が全員102期の同期生ということで、和気あいあいとした雰囲気も印象的。
 舞空瞳ミュージック・サロン『Dream in a Dream〜永遠の夢の中に〜』ライブ配信観ます。
 ラクロの小説『危険な関係』を原作とする『仮面のロマネスク』は1997年雪組初演の柴田侑宏脚本作品(初演の演出は柴田自身、今回の演出は中村暁)。たびたび再演を重ねている作品だが、私は1997年12月に閉場した旧東京宝塚劇場で初演公演を観て以来の観劇。どこか『ベルサイユのばら』論とも感じられるこの作品を、雪組が『ベルサイユのばら』を上演する2024年に観られたことをおもしろく思った。原作小説の時代背景はフランス革命前夜だが、宝塚版では王政復古時代が終焉を迎える1830年のフランス7月革命の前夜へと設定が変わっていること、また、原作と異なり主人公ヴァルモン子爵(朝美絢)が終幕において『風と共に去りぬ』のレット・バトラーの如き行動をとるところも非常に興味深い。『仮面のロマネスク』初演翌年の1998年に上演された『黒い瞳』から、柴田の眼病による視力低下もあって、柴田執筆脚本を他の演出家が演出する体制となった。その『黒い瞳』の深意に私が気づいたのも、2011年に雪組全国ツアー公演で上演されたときだった……と思い、柴田侑宏のインスピレーションについて改めて考えるひとときとなった。複雑な男女の心理ゲームが繰り広げられるが、菊田一夫脚本作品『ダル・レークの恋』の複雑な男女関係にも通じる魅力をも感じさせる作品。
 『Gato Bonito!!』は2018年雪組初演のラテン・ショー(作・演出:藤井大介)。主演の朝美絢が熱い熱い世界をパッショネイトに体現する。客席降りも大いに盛り上がって、楽しい。
 ……ちょっとちょっかい出してきてる?(笑) みたいに感じさせて、それが実は温かさ、優しさというのが朝美の包容力の形である。夢白あやの、舞台人としての毅然とした成長ぶりに心打たれる――でもでも、相手役にちょっとふっと委ねてみたりすると、さらに魅力開花しそうな。縣千は、『仮面のロマネスク』の恋に浮かれる青年ダンスニーをコミカルさも交えてノーブルにキュートに演じている。

(15時の部、ウェスタ川越大ホール)
 10月に退団を控えた雪組トップスター彩風咲奈の主演公演(相模女子大学グリーンホール)。彩風がまもなく長い旅に出る大スター、ミスター・ブルームに扮し、自身の舞台人生を振り返っていくという趣向(作・演出:野口幸作)。2007年の星組公演『さくら』『シークレット・ハンター』で初舞台を踏み(初舞台ロケットの再現も)、その後はずっと雪組で育ってきた人なので、その間の雪組の歴史を自ずと振り返るような側面も。抑えた声で放つセリフにときににじませる乾いた自嘲の味わいに、男役としてこれまで見せてこなかった顔を見る思い。その一方で、心どこか解き放たれたように踊る姿にはみずみずしさがあふれていて、退団イヤーに彼女から新たな魅力を引き出した演出家の手腕が光る。エネルギッシュなダンス場面が続いた後に、力強く歌い上げる様も印象的。退団公演『ベルサイユのばら−フェルゼン編−』での魅力発揮&新境地開拓にも大いに期待。