13時半の部観劇(東京宝塚劇場)。『WELCOME TO TAKARAZUKA −雪と月と花と−』は、坂東玉三郎が初めて宝塚作品の監修を手がけた日本物ショーで、作・演出は植田紳爾。繊細な色遣いが美しい舞台装置と、その中に立つ出演者たちとを、照明があでやかに引き立てている(装置:関谷敏昭、照明:勝柴次朗)。主題歌「それが宝塚」(作曲:吉田優子)も、一度聞けば絶対覚えて一緒に歌い出したくなる楽しさ――作中、はたして何回「WELCOME」という語が歌われるのだろう! 月組生が一丸となって群舞を繰り広げる<月の巻>は見応えあり。宝塚の華やかな日本物ショーの伝統がこれからも守られていくことを願う。
 『ピガール狂騒曲〜シェイクスピア原作「十二夜」より〜』は、『十二夜』の物語と実在のフランス人作家、シドニー=ガブリエル・コレット(回想録『わたしの修業時代』は非常におもしろい一冊である)とを絡ませた作品ということで、大変楽しみにしていたのだけれども……、うむむむむ。脚本上の大小さまざまな「???」を、月組生が大奮闘の熱演で笑えるコメディへとねじ伏せていく様が痛快(一番問題だと思った点は、本日観劇後、演出家に直接伝えました)。スタイリッシュなフィナーレ付き。今日の黒燕尾服のダンス・シーンの気迫は凄かった!
2020-11-25 23:37 この記事だけ表示
 物語序盤、柚香光扮する伊集院忍帝国陸軍少尉の姿に、袴姿のはいから女学生たちがきゃあとうっとりする場面がある。その様を観ていて、私の耳に、ある人の言葉があざやかに甦った――。
「軍人さんと、春日野さんの軍服姿はかっこよかったのよ」
 そう言ったのは良枝さんである。良枝さんは、夫の母方の祖母。1923年に生まれ、今年6月、96歳で天寿を全うした。――彼女と私は気が合った。春日野八千代ファンだった彼女は、しばらく宝塚から遠ざかっていたのだけれども、「春日野さんが久しぶりに舞台に立つから」と、今の東京宝塚劇場のこけら落とし公演、月組の『いますみれ花咲く』(2001)に連れ出した。良枝さんは、そのとき85歳だった春日野八千代が元気に舞う姿に勇気づけられ、そして、併演の『愛のソナタ〜リヒャルト・シュトラウス/フーゴー・フォン・ホフマンスタール作:オペラ「ばらの騎士」より〜』での真琴つばさの“ばらの騎士”ぶりに、「――昔、春日野さんがあんな感じだった……」と、衝撃を受けて黙りこくってしまった。その姿が忘れられない。何十年も前の記憶があざやかに甦る瞬間。少女時代に戻ったのだろうとも思う。しかし、それと同時に、彼女には、それから生きてきた長い年月の記憶もある。戦争があって。戦争が終わって。生き抜くのに必死だった時代があって。そして、今――。
 良枝さんは外房の大地主の娘である。家にはテニスコートがあり、バレエを習っていた――これは私は同行していないのだけれども、Kバレエの公演を観て熊川哲也芸術監督を気に入っていたとか。そんな良枝さんに聞いた中で、一番心に深く刻まれている話がある。戦前、小作人たちが彼女に挨拶するとき、どこか目を伏せていた。それが、戦後、農地改革で自分たちも土地を持てるとなったとき、顔を上げて、キラキラ前を向いていた。それを見て、良枝さんは、これはとてもいいことなんだと思ったと言う――その土地はといえば、良枝さんの家のものだったわけなのだけれども。その言葉を聞いて、私は、この人はとても立派な人だと思った。面と向かって言ったことはないけれども、尊敬していた。良枝さんの夫は中島飛行機に勤めていたから、戦後は解体されてしまって、大変である。正直、観劇どころではない時代もあったと思う。もちろん、孫の嫁だからということもあると思うけれども、彼女は私にはあまり愚痴は言わなかった。朗らかで無邪気で、お嬢様育ちだからこそのときに実にシャープな物言いが、話していて楽しかった。
 このコロナ禍で、100年前に流行したスペイン風邪がよく引き合いに出されるけれども、夫の父方の祖母である千代さんはといえば、そのスペイン風邪で両親を亡くしている。千代さんは優秀だったから、親戚が援助してあげようということになって、上の学校に進んで先生になり、教職を続けながら子供たちを育て上げた。そのとき、千代さん自身、スペイン風邪で亡くなっていたら、今、私の目の前に座っている人はこの世に存在しないんだな……と、夕餉の席で思うことがある。
 個人的な思い出を書き綴ってきたのは。……そうやって、過去の苦難の時代をくぐり抜けてきた人たち、その人たちの生なくして、今はないと思うからである。そう思うと、自分が今すべきことが自ずと見えてくる。一歩一歩、少しでも、歩みを前に進めること。そして、『はいからさんが通る』は、そんな思いをとりわけ強く深くしてくれる作品なのだった。物語のクライマックスは1923年の関東大震災――良枝さんが生まれた半月後である。震災により何もかもなくなってしまった「冗談社」編集部の焼け跡に編集部員たちが集まり、みんなでやり直すことを誓う。そこに、小説家高屋敷要がやって来る。言論の炎を消さぬため、徹夜で書き上げた原稿を持って。その原稿こそが、『はいからさんが通る』の物語なのだった――コロナ禍で長い休演を余儀なくされていた宝塚大劇場での復活第一弾となったこの作品において、きわめて意義深いエピソードである。人は、何度だって立ち上がって、前を向いて生きていける。心に同じ炎を燃やす仲間と共に、励まし合って。
 そうでなくては、良枝さんにも、千代さんにも、そして、多くの“良枝さん”たちや“千代さん”たちにも、申し訳が立たないと思うのである。今は天上から見守っている彼女たちに、「私たちも頑張ってます!」と胸を張りたい私がいる。心からの感謝の思いをこめて。

 花組新トップスター柚香光は大変な状況下での船出となったが、その状況にまっすぐに向き合い、原点をしっかり見つめ直したことで、トップスターとして、舞台人として、大きな成長を遂げている。伊集院忍役の演技も深まるばかり。その姿に、少女のころ、大和和紀による原作漫画を読んでいて、なぜ少尉がヒロイン紅緒を愛するか、自分がまったく考えていなかったことに気づき、内心苦笑した――少女だったから、ヒロインはヒーローと結ばれる、そういうものとしか考えていない。ちゃんと読めばちゃんと書いてあるのだけれども――。日独ハーフとして生まれ、両親と離れて祖父母に育てられた彼がどこか孤独を感じていたこと。そんな彼の心を、常に明るく前向きなはいからさん、紅緒が明るく照らし出していくこと。少尉がもうちょっと優柔不断じゃなかったら話はもっとすんなり収まるところに収まっていたのでは……と思うところなきにしもあらずなのだけれども、柚香の演技を通して少尉を考えるとき、優柔不断と映るところは、実は、あふれんばかりの優しさであることに気づく。周りを思いやりすぎるあまり、自分の心を後回しにしてしまう人。そんな少尉がやはり譲れなかった心こそが、はいからさん紅緒への愛なのだった。
 そのはいからさん紅緒を演じる華優希は、3年前の初演よりさらにはっちゃけて、真っピンクのうさぎ&ハート柄のモンペのアンサンブルもあっぱれの着こなし――この柄が原画通りなら、白い襟と袖口近くに花の刺繍があしらわれている薄いグリーンのドレスも原画通りと、加藤真美による衣装が実にキュートである――。酒乱シーンでの大暴れも痛快な限り――それにしても、少女漫画のヒロインが酒乱というのも、今さらながらあっぱれな設定である。浅草のシーンでは、浅草オペラのスター、田谷力三と原信子が当時のヒット曲「恋はやさし野辺の花よ」を歌った後に、紅緒が酔って暴れて乱闘へとなだれ込むという設定になっていて、紅緒の酒乱を表現すべく、「恋はやさし野辺の花よ」のメロディが乱れ乱れていくのがツボである(音楽:手島恭子)。「冗談社」編集部の壁を飾る、紙が何枚も貼り合わされた売り上げ低迷グラフや、原作ファンならおなじみの作者による「今週のみことば」もしっかりセットに登場して(装置:稲生英介)、キャストの原画再現率もさることながら、スタッフが一丸となって、作品世界の二次元から三次元への具現化に力を尽くしている様がうかがえる。
 少尉の恋のライバル、冗談社編集長青江冬星を演じた瀬戸かずやは、きめ細やかな人物造形で魅せた。冬星は女嫌いで、原作の番外編では、紅緒によく似たフランス人少年を養子とし、38歳の若さでこの世を去るという設定になっている。そんな冬星が紅緒に寄せる愛は深い。彼もまた、紅緒の明るさ、まっすぐさによって、心を明るく照らし出された人間である――紅緒との結婚式直前に発する名セリフ、「来たな、恋人」の幸せそうなこと! だからこそ、関東大震災が起きて運命が変わり、少尉と生きていくことを選択した紅緒をあきらめた冬星が、少尉と思いっきり殴り合うシーンのせつなさが際立つ。柚香の少尉と瀬戸の編集長、紅緒に愛を寄せる男性が魅力的であればあるほど、ヒロイン紅緒の魅力もまた浮き彫りになる。二人の男役としての力量が光った、銀橋上の名シーンだった。
 日本青年館ホールから東京宝塚劇場へと上演の場が変わったことで(関西ではシアター・ドラマシティから宝塚大劇場)、感じ取れるものもまた変わってきたのが非常に興味深かった。“清く正しく美しく”を家訓とする伊集院家に花嫁候補として乗り込んだじゃじゃ馬娘の紅緒が、家に新たな風を吹き込んでいく。その様は、宝塚でも人気作品として上演され続けている『ミー・アンド・マイガール』をも思い起こさせる。『ミー・アンド・マイガール』においては主人公ビルが恋人サリーと共に新たな風を吹き込んでいくのに対し、『はいからさんが通る』では新たな風を吹き込んでいくのは紅緒で、少尉はそれをにこやかに見守る。男役が主人公を演じる宝塚歌劇において、<動の紅緒、静の少尉>という構図を見事成立させた、作・演出の小柳奈穂子の手腕が光る。
 1914年、大正3年に誕生した宝塚少女歌劇。当時、宝塚に集った少女たちも、はいからさんだったことだろう。そんな彼女たちに憧れの眼差しを向ける少女たちも、また。はいからさんたちが新しい時代を切り拓いて、次の世代のはいからさんたちへと繋いでいく。今回の『はいからさんが通る』の公演で、そんな歴史の流れの一部であることを実感できたことを、今の私は幸せに感じるのである。
2020-11-15 01:52 この記事だけ表示
 作・演出は岡田敬二。彼が手がけてきた“ロマンチック・レビュー”シリーズの名場面集の趣で、懐かしいシーンが多く、…これは、あの作品であの人が演じていた…! と、イントロ・クイズのように楽しく。一度聞いたら絶対サビを口ずさめるようになる主題歌もツボ(作曲の吉崎憲治は、1933年生まれの大ベテラン!)。男くさく濃ゆい男役像を、専科の凪七瑠海が体現。こってりねっとり歌い踊っても、自身の持ち味でどこかすっきりさわやかに中和されていくところが面白い。共に雪組から出演した16名の宝塚愛の深さも伝わってきて。彩みちるが、名ダンサー娘役トップ星奈優里を思わせる大人っぽいムードで魅了。「YOUME AMOR (夢・アモール)」を歌う千風カレンが、ロマンチック・レビューの世界に没入していた姿が印象的。
2020-10-25 23:07 この記事だけ表示
 凪七瑠海の男役芸を満喫中〜!
2020-10-25 15:11 この記事だけ表示
 凪七瑠海コンサート ロマンチック・ステージ『パッション・ダムール−愛の夢−』千秋楽ライブ配信観ます!
2020-10-24 23:39 この記事だけ表示
 充実の内容〜。共演の若手も気合十分で、チームワーク◎。そして、やっぱり登場、みんな大好き“アヤナギ先生”(笑)。辛口から甘口まで、二枚目から三枚目まで、男役彩凪翔の芸の幅は広い!
2020-10-20 23:38 この記事だけ表示
 雪組公演『NOW! ZOOM ME!!』で披露した“アヤナギ先生”(某名作教師テレビドラマのタイトルロールのパロディ)もおもしろすぎた彩凪翔1Day Special LIVE『Sho−W!』無観客ライブ配信夜の部観ます〜。「うたコン」は録画で必ずや観ます! 
2020-10-20 12:02 この記事だけ表示
 2017年の日本青年館ホール公演も好評を博した『はいからさんが通る』、一段とスケールアップして東京宝塚劇場に登場! 原作は言わずと知れた大和和紀の名作少女漫画。まずは、小柳奈穂子の脚色のすばらしさに唸るばかりである。3年前の公演から大劇場公演用に変更もなされているが、なかでも、今回新たに加わった構造が、今のこの困難な状況下にあって、終幕、大いに効いている。描き切れなかった原作のエピソードのエッセンスもふんだんに盛り込まれており、原作ファンなら「あ、これはあのエピソードの変奏曲だ〜」とうれしくなってしまうはず。日独ハーフの金髪軍人、伊集院忍少尉を演じるのは、花組新トップスター柚香光。「…二次元のキャラクターが、な、なぜか、立体的に動いている〜」と何度も驚愕に襲われるほど、漫画のページからそのまま抜け出してきたよう! 「少尉、本当に生きてたのね〜」と、原作のヒロイン紅緒さん同様、ギャグめいた感慨を漏らしそうに。そんな柚香少尉を筆頭に、出演者たちがはつらつと登場人物それぞれの物語を生きる姿に、思いを馳せずにはいられない。物語の舞台である大正時代を実際に、懸命に生きた人々の姿を。スペイン風邪。米騒動。関東大震災。そのときもやはり困難はあった。そんな困難を乗り越えて人々が生き抜いてきたからこそ、今がある。そして、今このときはいつか過去となり、後の世を生きる人々の未来を照らす灯となる。
 少女時代から大好きな漫画である。というか、振り返ってみて、この漫画に出逢っていなければ、こんなにも大正時代に憧れを抱くことはなかっただろうし、紅緒が生き生きと仕事に励む姿に感銘を受けなければ、出版社に入って記者になろうとは思わなかったのではないか――と思う。大きな影響を受けた作品である。そんな作品を、出演者、スタッフ、そして観客、多くの人々と今こうしてわかち合えることが幸せである。
 本日昼の部のフィナーレは“浪漫バージョン”。名曲「黒い瞳」に乗り、柚香光を筆頭に、花組男役陣が、黒燕尾服姿で踊る。絶品である。黒燕尾服の舞で6年ぶりとなる高水準の心拍数を記録(←あひる体感基準による)。
 なにせ大好きな作品、大好きな時代ゆえ、これからもいろいろ書く予定ですが、まずは一つ蘊蓄をば。東京宝塚劇場からほど近い「泰明小学校」は、関東大震災後に建てられた“復興小学校”の中でも名高い建築。人々が大災害を乗り越えた一つの証である。
2020-10-14 23:59 この記事だけ表示
 個人サイトでの通し舞台稽古に関する記事掲載はNGになったので、本番の舞台を観てから書きたく。
2020-10-08 23:25 この記事だけ表示
 自粛期間を経てさらにかっこよく美しくなった雪組トップスター望海風斗が、雪組メンバーと共に東京宝塚劇場に降臨! 作・演出の齋藤吉正と見事合体、繰り出すそのパワーたるや、「DAIMON!」コールのみならず「YOSHIMASA!」コールしたいほど(←心の中で)。仕事が山積みの上、明日も朝から取材なので今宵はこれにて〜。「うたコン」にもパワーもらいました! こちらもまた後日〜。
2020-09-29 23:11 この記事だけ表示