12時の部観劇(博多座)。暁千星のビルが舞空瞳のサリーと共に体現する世界が非常に興味深く、英語台本にあたってみたく。28日&29日にはライブ配信あり。
 ベルリンの壁崩壊前夜の東ベルリンを舞台に描く『フリューゲル−君がくれた翼−』は、『JAGUAR BEAT−ジャガービート−』のスマッシュ・ヒットも記憶に新しい齋藤吉正作・演出のミュージカル。月城かなと扮する東ドイツの軍人と海乃美月扮する西ドイツの世界的ポップスター、二人のポンポン弾むやりとりも楽しい。『ベルサイユのばら』オマージュもあり、宝塚におけるさまざまな先行作品の文脈を踏まえて作られており、10月24日にタカラヅカ・スカイ・ステージで放送される『ロシアン・ブルー−魔女への鉄槌−』(2009、作・演出:大野拓史)の視聴もあわせてお勧めしたく。“東京詞華集(トウキョウアンソロジー)”の角書がついた『万華鏡百景色』は、栗田優香の大劇場公演デビュー作となるレヴュー。シュガー・ベイブの「DOWN TOWN」等、近年世界的に注目されるシティ・ポップの数々で中詰を展開、椎名林檎とトータス松本の「目抜き通り」をフィナーレに用いるなど、選曲も新鮮。銀座を舞台にした場面も多く、劇場帰りに銀ブラしたくなる作品。月城かなと&海乃美月は本当にいいトップ・コンビになった!
 『鴛鴦歌合戦』は1939年(昭和14年)公開の日活のオペレッタ時代劇映画が原作(監督:マキノ正博、脚本:江戸川浩二。宝塚版は脚本・演出:小柳奈穂子)。藩の跡目争いの要素を加え、映画の原曲にオリジナル楽曲を合わせた構成。歌舞伎のパロディも入っていて、基本的には楽しいコメディ作品。花組トップスター柚香光は、主人公の貧乏浪人浅井礼三郎の、どこかニヒルであるが故にかあちこちの女心を吸引している様を魅力的に表現。礼三郎の許婚に思いを寄せる秀千代役の聖乃あすかにほっこりとぼけた味わい。主人公に首ったけで、ヒロインお春(星風まどか)の一番の恋のライバルとなるおとみ役の星空美咲が、恋心のあまりお春にちょっと意地悪してしまったりするお嬢様の純情をかわいらしく見せた。実は礼三郎は藩主につながる血筋であることがラストで明かされるのだが、それまでも彼と交流のあった藩主の母で尼僧の蓮京院役の京三紗(専科)が、……我が子だったなんて! しかもいい男に育って! と、しっとりしみじみの果てに見せるちゃっかり感がツボ。藩のお家騒動を解決すべく奮闘する家臣の蘇芳役に紫門ゆりや(専科)――出てくると芝居が引き締まる。
 『GRAND MIRAGE!』(作・演出:岡田敬二)では、クラシックな香りのレビューに、男役柚香光が体現するシャープな現代性が味わいを添える。聖乃あすかも熱唱を聴かせた。

 『鴛鴦歌合戦』で、花咲藩藩主峰沢丹波守(演じる永久輝せあは、宝塚の舞台を、男役をもっとENJOY!)が藩政をおろそかにして女遊びと骨董収集にうつつを抜かす真の理由を一人知るその正室麗姫役で、これが退団となる春妃うららが、コメディのツボをきちんと押さえた演技を披露。2011年入団で最近では大人っぽい役も任されてきた春妃だが、本来の持ち味である可憐さも大いに生きる役どころだった。『GRAND MIRAGE!』の第22場、3組の紳士と淑女が歌い踊るシーンでは、紫門と春妃が組み、やはりこの公演で退団となる航琉ひびき、和海しょうも登場。紫門の男役としての包容力もあり、春妃の娘役としての魅力が存分に引き出され、航琉、和海の歌唱も味わえて、クラシックな香りのする作品の中でもとりわけ正統派の魅力をたたえた、印象深い餞の場面となっていた。
 5月16日11時の部観劇(東京建物 Brillia HALL)。1994年に雪組で初演された作品の再演(作・演出:正塚晴彦)。舞台は架空の連邦国家。「上官殺害事件」の被告となった一人の青年士官(柚香光)が、若き日の闘いを振り返り、語り出す――連邦軍基地と、連邦からの独立を目指す自治州の少数民族との間に軍事的衝突の恐れが高まる中、自ら志願してその地に赴任した彼は、立場や民族の違いを越えての人と人とのつながりを知り、恋を知り、そして、「事件」は起こる。信念を貫いて生きること。他者を尊重して生きること。人間同士の本音でのぶつかり合い、その緊張感に劇場中が息を呑むようにピンと張りつめた時間が、心に忘れがたい刻印を残して。主人公が、長年離れ離れに生きざるを得なかった愛する人(星風まどか)と遂に再会を果たす結末に、創り手が、受け手、観客に寄せる深い信頼の念を感じた。花組トップスター柚香光が緊迫感に満ち満ちた作品の芯をきりっと務め上げ、専科から出演の高翔みずき、凛城きらの二人が、立場を越えての友情をくっきり描き出す。軍曹役の羽立光来の男性の逞しさの表現もよかった。
 11時の部観劇(日本青年館ホール)。原作は渡辺淳一が1972年に発表した医療小説『無影燈』で、2012年に雪組で初演された作品の再演。生と死、医療倫理といった問題を扱う作品に、キャストがまっすぐ取り組む様が好感度大。自身も死と向き合う主人公の医師役で、和希そらが舞台の芯をしっかり務める――ニヒルに響かせる低音のセリフ声。そんな主人公の生き方に次第に共感していく若き医師役で、縣千が温かみと誠意がにじむ演技を見せる。芸達者な上級生たちがきっちり締め、若手たちも奮闘、雪組の芝居心が楽しめる舞台。テーマ的に重くなりがちなところ、専科の夏美よう、五峰亜季の二人がさらりと見せる軽妙さが効いている。静の芝居をずっと見せてきた和希がはじけたように踊りまくるフィナーレ――ふとした動きに男役としてニュアンス付けできるのが魅力である。観ていて、今回の舞台とも共通する題材を扱う大和和紀の医療漫画『菩提樹』を少女時代に愛読していたことを思い出した。
 『鴛鴦歌合戦』のコメディ展開は宙組『カジノ・ロワイヤル〜我が名はボンド〜』に通じるところがあるというか、柚香光演じる主人公がすーっとかっこよく立っていて、その周りでにぎやかに盛り上げる構造だと感じる。専科より出演の京三紗、紫門ゆりやのたたずまいや呼吸は大いに参考になると思う。春妃うらら、聖乃あすか、星空美咲、コメディの演技が身体にしっくり落ちている。
 『GRAND MIRAGE!』の中詰め以降の盛り上がりや良し。柚香光の没入感とキレのある動きに、生の刹那の閃光と、花組男役の魅力の真髄を観た。

(13時半の部、東京宝塚劇場)
 星組、一段と上に行ったと思う!
 白熱! 非常に引き込まれており。
 星組日本青年館ホール公演『Le Rouge et le Noir〜赤と黒〜』&星組東京宝塚劇場公演『1789−バスティーユの恋人たち−』について、詳しくは後日執筆とさせていただきたく。ここでは、本日の星組公演『1789』千秋楽をもって退団する2名について。
 フランス王妃マリー・アントワネットを演じた有沙瞳は、宝塚生活最後の舞台において、演じることについて大きなヒントをつかんだ感がうれしい。私は先に、作品について、「人間の生の尊厳と愛とを祝福する、実にエネルギッシュな舞台」であると評した(http://daisy.stablo.jp/article/500159787.html)。その意味において、マリー・アントワネットとスウェーデンの将校ハンス・アクセル・フォン・フェルゼンとの叶わぬ恋の描写が重要となるところ、有沙は、潤色・演出の小池修一郎の期待に応え、一人の人間として愛を求める姿と、フランス王妃としての立場ゆえにその愛をあきらめる姿をきっちり描き出した。
 フランス革命を描くこの作品において大きな役割を果たす“主役”である市民の一人として、音咲いつきもエネルギーを発揮した。音咲は、前回公演『JAGUAR BEAT−ジャガービート−』の未来都市のロボットサーカス団の場面で、セクシーな女豹のコスチュームを身にまとい、「♪Dance with you オマエを待ってたのよ」と誘いかけるパンチの効いた歌唱が非常に印象に残っている(オリジナルの歌詞がついていますが、ここの原曲は、鈴木修が作曲したプロレスラー潮崎豪の入場テーマ曲「ENFONCER」)。
 11時の部観劇(KAAT神奈川芸術劇場ホール)。ゲーム「逆転裁判」シリーズの「大逆転裁判」を原作に、オリジナル・ストーリーで展開。宝塚では「逆転裁判」シリーズを原作にした舞台がいずれも宙組でこれまでに3作品上演されており、「異議あり!」ポーズと共に蘇った主題歌「蘇る真実」も懐かしく。物語の進行が若干緩やかに感じられたものの、第2幕のクライマックスの法廷シーンでゼングファ共和国の大使ブラッド・メニクソン役の汝鳥伶(専科)が一気に舞台を引き締めて。
 余談ですが。神奈川芸術劇場や神奈川県民ホールで観劇した帰り、近くにあるホテルニューグランドの1927年竣工の壮麗な建物を愛でに行くことが多いのですが、本日、ホテルの歴史を紹介するコーナーにて、1934年の「日米親善野球」で来日した際に宿泊したベーブ・ルースの写真のパネル展示を発見。ベーブ・ルースがここにいたんだ……と。