星組日本青年館ホール公演『Le Rouge et le Noir〜赤と黒〜』&星組東京宝塚劇場公演『1789−バスティーユの恋人たち−』について、詳しくは後日執筆とさせていただきたく。ここでは、本日の星組公演『1789』千秋楽をもって退団する2名について。
 フランス王妃マリー・アントワネットを演じた有沙瞳は、宝塚生活最後の舞台において、演じることについて大きなヒントをつかんだ感がうれしい。私は先に、作品について、「人間の生の尊厳と愛とを祝福する、実にエネルギッシュな舞台」であると評した(http://daisy.stablo.jp/article/500159787.html)。その意味において、マリー・アントワネットとスウェーデンの将校ハンス・アクセル・フォン・フェルゼンとの叶わぬ恋の描写が重要となるところ、有沙は、潤色・演出の小池修一郎の期待に応え、一人の人間として愛を求める姿と、フランス王妃としての立場ゆえにその愛をあきらめる姿をきっちり描き出した。
 フランス革命を描くこの作品において大きな役割を果たす“主役”である市民の一人として、音咲いつきもエネルギーを発揮した。音咲は、前回公演『JAGUAR BEAT−ジャガービート−』の未来都市のロボットサーカス団の場面で、セクシーな女豹のコスチュームを身にまとい、「♪Dance with you オマエを待ってたのよ」と誘いかけるパンチの効いた歌唱が非常に印象に残っている(オリジナルの歌詞がついていますが、ここの原曲は、鈴木修が作曲したプロレスラー潮崎豪の入場テーマ曲「ENFONCER」)。
 11時の部観劇(KAAT神奈川芸術劇場ホール)。ゲーム「逆転裁判」シリーズの「大逆転裁判」を原作に、オリジナル・ストーリーで展開。宝塚では「逆転裁判」シリーズを原作にした舞台がいずれも宙組でこれまでに3作品上演されており、「異議あり!」ポーズと共に蘇った主題歌「蘇る真実」も懐かしく。物語の進行が若干緩やかに感じられたものの、第2幕のクライマックスの法廷シーンでゼングファ共和国の大使ブラッド・メニクソン役の汝鳥伶(専科)が一気に舞台を引き締めて。
 余談ですが。神奈川芸術劇場や神奈川県民ホールで観劇した帰り、近くにあるホテルニューグランドの1927年竣工の壮麗な建物を愛でに行くことが多いのですが、本日、ホテルの歴史を紹介するコーナーにて、1934年の「日米親善野球」で来日した際に宿泊したベーブ・ルースの写真のパネル展示を発見。ベーブ・ルースがここにいたんだ……と。
 人間の生の尊厳と愛とを祝福する、実にエネルギッシュな舞台だった――終演後、自分の中で命の炎がごうっと音を立てて燃えているのを聞いていた――。
 革命前夜のフランスを舞台とするドーヴ・アチア&アルベール・コーエンによる2012年初演のフレンチ・ミュージカルの、宝塚での二度目の上演(初演は2015年月組)。宝塚歌劇団最大のヒット作と言えば、フランス革命を扱う『ベルサイユのばら』である。この『1789』再演において、潤色・演出の小池修一郎は、秀逸な『ベルサイユのばら』論、ひいては宝塚歌劇論を繰り広げる。そして、演出家が深い愛をもって引き出した、演者たちのパワフルなパフォーマンス――ときに、魂が宙へと浮遊していくかのよう! 8月27日13時半の千秋楽公演はライブ中継・ライブ配信あり。

(13時半の部観劇、東京宝塚劇場)
 11時の部観劇(東京建物 Brillia HALL)。“アーサー王伝説”を新解釈で描くミュージカル(2019年韓国初演)で、宙組新トップコンビ芹香斗亜&春乃さくら、発進。フランク・ワイルドホーンの楽曲に取り組んで、キャストがまっすぐな頑張りを見せる。アーサー役の芹香斗亜は、自信を持って堂々歌っている箇所はとても心に響くのだから、演じることをもっとENJOY! 周りの芝居に乗って、そのときどきで生まれてきた感情を大切にしてみては? アーサーの妻となるグィネヴィア(春乃さくら)に思いを寄せる騎士ランスロット役の桜木みなとに憂いとせつなさ。二幕のアーサーとランスロットの対峙シーンの緊迫感、◎。悠真倫(専科)が、トサカみたいな髪型もワイルドに、悪役であるサクソン族の王ウルフスタン役で迫力の好演。
 確かに、昨年の『心中・恋の大和路』(配信視聴)で演じたヒロイン梅川には……となった。一方で、そのすさまじいガッツに、……それが全部いい方向に向いたらおもしろい存在になるかも……と感じた。それから一年。雪組トップ娘役お披露目公演で、夢白あや、大健闘。次はいったい何を繰り出してくるんだろう……と食い入るように観てしまう。あふれ出る活力ゆえの吸引力。レビュー『ジュエル・ド・パリ!!』(作・演出:藤井大介)で大盛り上がりを見せた華やかなフレンチカンカンでの活躍ぶり――夢白から個性を大いに引き出した藤井の手腕も光るところ。夢白は、娘役芸についても、魅力的な存在の多い雪組娘役陣、そして今回専科より出演して舞台を引き締めている美穂圭子(雪組出身)から多くを吸収しているよう。前任のトップ娘役朝月希和は客席に対し花組男役ばりのアピールができるショースターだったけれども、そんな朝月の影響も感じられたところが頼もしかった。
 19世紀初頭のプロイセンの鉄道業発展をテーマに描く『Lilacの夢路−ドロイゼン家の誇り−』の作・演出・振付は謝珠栄。愛した女性ディートリンデ(野々花ひまり)の哀しき振る舞いに絶望し、けれども彼女への愛ゆえに苦しむ様を演じて、フランツ役の朝美絢の男役芸に陰影が増した。『ジュエル・ド・パリ!!』での、和希そら(『心中・恋の大和路』では主人公・亀屋忠兵衛役として夢白の梅川を見守る様に包容力を感じた)がクレオパトラ風の扮装でキレキレのダンスを繰り広げるシーンでは、奏乃はるとが何かが吹っ切れたような熱唱を聴かせていた。
 破壊力満点の相手役を得た彩風咲奈は、宝塚の男役をもっとENJOY!!!
 命を奪うことに倦んだ死神が、“死神業務”から休暇をとって人間の青年へと姿を変え、生をENJOYしていく過程で、人間とは何か、生とは、死とは何かを探究してゆく――。心の奥で大切に慈しみ続けたいような、宝塚歌劇にぴったりの作品! 月組に、そして月組トップコンビ月城かなと&海乃美月に新たな代表作誕生。ラストを芸術論にもっていった死神役の月城かなとにあひる鳥肌――その意味で確かに「愛は死より強い」。キュートで個性的な登場人物揃いの中、“心のキャラ”は佳城葵が演じた使用人頭フィデレに決定〜(この人が活躍したら月組はますます盛り上がるだろうなと長いこと心待ちにしていた)。ゆっくり書きます。
 オフ・ブロードウェイ・ミュージカル(2011年初演)の日本初演。適材適所の活躍が楽しい!
 月組東急シアターオーブ公演『DEATH TAKES A HOLIDAY』ライブ配信観ます。
 心弾むパリ・レビュー『ジュエル・ド・パリ!!』、本日の公演の盛り上がりや良し。生の祝祭! 芝居、レビューとも専科の美穂圭子がその歌声できりっと舞台を引き締めて。雪組新トップ娘役夢白あやのパンチの効いたパフォーマンス、破壊力抜群。

(13時半の部、東京宝塚劇場)
 宝塚歌劇で、“007”。宝塚の男役で、ジェームズ・ボンド。その任務を任されたのが、入団18年目、これが退団作となる真風涼帆である。果たして、真風涼帆が演じるジェームズ・ボンドは、かっこいい。男役として寸分の隙もない身のこなし。スーツの着こなし。近年の宙組において上演されたロシア物作品の系譜をたどるような趣向も凝らされたこの作品におけるロシア・コスプレもバッチリはまる。前述のように作品はコメディ展開で、周りがコミカルにやっているところで、真風ボンドが一人すーっと真顔でキザなセリフを決めたりするのが見どころだったりする――それがかっこいい。そして、おかしくもあるのは、彼女のコメディ・センスゆえだと思う。真風ボンドとオリジナル・キャラクターである潤花デルフィーヌには、超音波で通信するイルカに思いを馳せるデュエット曲「イルカが人を愛するように」がある(“デルフィーヌ”はイルカにちなんだ命名というわけである)。これから、真風涼帆のことを考えるたび、ジェームズ・ボンドのことを考えるたび、イルカのことも考えてしまいそうな自分がいる。退団作にして強烈なインパクト。
 ――そう思って笑うと、退団も、さみしくないような。
 まだ星組にいた時代だったから、随分前のことになるけれども、――もしかして、男役をやっていくことにいまいち自信がないのかな……と感じたことがあった。びっくりした。175センチの長身、シュッとしたルックス、宝塚の男役に打ってつけの人なのに。自信をもって突き進んで〜と思った。果たして、自信がついたのであろう後の真風涼帆は、男役道をそれはまっすぐに進んでいった。トップスターに就任したあたりでいささか足踏みも感じたけれども、星風まどかという相手役を得て、その後、大きな成長を遂げた。その星風とのトップコンビ解消は、男役・真風涼帆に“やせ我慢”という大きな武器をもたらした。星風とタイプの異なる潤花を相手役に得たことで、芸の幅はさらに広がった。女性の身体をもって美学を表現する、宝塚の男役としての芸の幅が。その舞台からは、与えられた役柄を柔軟に受け入れて表現しようとする精神を感じた。
 かっこいい。真風ボンドを観てそう感じるたび、――だから、退団なんだ……と思った。そりゃあもちろん、……こういう役も似合っただろうな……と思うところはいろいろある。『カサブランカ』のリックとか。でも。男役としてかっこいいのはもう十分わかっている。そんな彼女が、これからどんな新たな変化を見せていくのか、今はそちらに心ひかれて。
 宝塚への惜別の念をこめて、真風ボンドが歌う「Adieu 君に会えて良かった」(作詞:小池修一郎、作曲:太田健)の最後の一節。
「♪いつかまた会える日を信じて
  今は心込めて言おう
  君に会えて良かった」
 Same to you!
 ――『エリザベート』(2016)のフランツ・ヨーゼフ役を演じて、一幕ラスト、「♪君の手紙 何度も読んだよ」と歌う背中からあふれた思い、忘れない。