新演出版(脚色・演出・訳詞=稲葉太地)大成功! ラストからロケットへの入りも含めて宝塚歌劇論になっているのが非常におしゃれ。今宵はこれにて〜。
 芝居もレビューも花組トップコンビ永久輝せあ&星空美咲のますます深まるパートナーシップを堪能。『悪魔城ドラキュラ〜月下の覚醒〜』で、永久輝演じる主人公アルカードはあまり感情を表に出さないのだが、星空演じるヴァンパイアハンターのマリア・ラーネッドの言動によって心がぐっと動いたのを感じるとき、掛け合いの妙に唸った。『愛, Love Revue!』のデュエットダンスでも、永久輝の動きを受けて星空が動く、その阿吽の呼吸に魅せられた。
 永遠の命をもつドラキュラが、限りある命の人間を理解しようとする。それは、人間とは、命とはという根源的な問いに向き合うための一つの方法論である。人間ならざるものを演じる永久輝の姿に、命の輝きを照らし出していくような魅力を感じた。その父ドラキュラ・ヴラド・ツェペシュを颯爽と快演したのが、専科の輝月ゆうま。彼が息子アルカードの手によって滅ぼされることを自ら望むとき、『ファントム』で息子ファントムから殺してくれと懇願されるジェラルド・キャリエールの姿が浮かび、名曲「You are My Own」が流れてくるような思いがした。個性的なヴィジュアルのキャラクターが多数登場したが、ドラキュラの腹心デス役の紫門ゆりやの死神メイクは、『ドン・ジュアン』(2016)で香綾しずるが演じた騎士団長の亡霊のメイクと双璧を成す強烈ヴィジュアル。
 『愛, Love Revue!』で強烈に印象に残ったのが<第16場 Bad Power>である。Alephの1989年の曲「Bad Power」に乗って、永久輝率いるスーツ姿の花組男役たちが踊りまくる。何だか泳いでいるみたいな振りがあって、どこか日本のお祭りをも想起させる雰囲気で、でもそれをスーツ姿でずらっと並んだ男役たちが気合を入れて踊っていて、しかもリフレインと共に踊りが次第に激しくなっていく。かっこいいんだか何だかもはやよくわからない、でも、妙にツボにハマって自分も心の中で「ハッ!」と掛け声をかけ始め、家に帰ったら早速真似して踊ってみたくなる、そんな中毒性のある場面。そんな場面を見事成立させているからか、花組男役たちのパワーが以前より前面に押し出されてくるように。恐るべし「Bad Power」。
 重厚さと軽やかさとを併せ持つ演技で花組の舞台をおもしろくしてきた羽立光来が、本日の千秋楽をもって宝塚の舞台を去る。『悪魔城ドラキュラ〜月下の覚醒〜』で演じたのはフランス革命の指導者・政治家マクシミリアン・ロベスピエール。ドラキュラの手下たちと結び、操られて急に人格が変わったり、はたまた民衆に怒りをぶつけられておろおろしたり。宝塚において描かれてきたロベスピエール像を短い場面で駆け抜けていくような役どころを、長身の体躯と歌唱力をもって堂々と演じ、原作ゲームと宝塚歌劇の世界の橋渡しをする上で重要な役割を果たしていた。
 第二次世界大戦後のパリ、戦争によるさまざまな心の傷を抱えた人々が、芸術、創造のパワーを解き放つことで少しずつ癒され、前に進んでいく様をさわやかにつづる青春群像劇となっていて、今の混迷の時代にどのような夢を舞台に描き出していくのか、クリエイターたちの自負も伝わるすがすがしい作品だった(潤色・日本語脚本/石田昌也、演出・上演台本/指田珠子)。今宵はこれにて。
 シリアスとコミカルのバランス良し。そして、キュート!
 雪組御園座公演『An American in Paris(パリのアメリカ人)』ライブ配信観ます。
 『悪魔城ドラキュラ〜月下の覚醒〜』(原作/株式会社コナミデジタルエンタテインメント「悪魔城ドラキュラ」シリーズ、脚本・演出/鈴木圭)は、1986年発売開始の人気ゲームシリーズの、オリジナルストーリーによる宝塚化。この作品を通じて宝塚歌劇に初めてふれる観客に対するイントロダクション的に、序盤で大階段を登場させ、宝塚ではおなじみのフランス革命ものを展開。『ベルサイユのばら』のオスカルのセリフの引用あり、『THE SCARLET PIMPERNEL(スカーレット ピンパーネル)』、『ルパン三世−王妃の首飾りを追え!−』(ルパン三世や銭形警部がフランス革命の時代にタイムスリップする)、『ひかりふる路〜革命家、マクシミリアン・ロベスピエール〜』等、これまで上演されてきたフランス革命作品群の系譜を踏まえた要素あり。また、ドラキュラもの、人智を超えた存在が登場する物語も宝塚の得意とするところであって、そうした作品群の系譜もきちんと踏まえた作りとなっている。花組トップスター永久輝せあ演じる主人公アルカード(アドリアン・ファーレンハイツ・ツェペシュ)とその父ドラキュラ・ヴラド・ツェペシュ(輝月ゆうま)の関係性には『ファントム』を思い起こさせるところもあり、宝塚歌劇111年の歴史で上演されてきた数多の作品が豊かな財産となっていること、それをこの作品を通じて分かち合えることを楽しく思った。もちろん、私のように「悪魔城ドラキュラ」シリーズにこれまでふれずに来た人間としては、原作の世界観、今回の舞台でも使用された音楽等、日本におけるゲーム文化の豊饒さを知るきっかけともなった。永久輝アルカードとトップ娘役星空美咲演じるヴァンパイアハンターのマリア・ラーネッドとのやりとりも見応えがあり、ときに笑いあり、胸キュン場面あり。
 『愛, Love Revue!』は大ベテラン演出家岡田敬二が手がけてきたロマンチック・レビュー・シリーズの第23弾。過去作品から選りすぐったロマンチック・レビューの名場面の数々に新たな場面も加わり、色彩遣いが華やかで美しい。永久輝率いる今の花組によって懐かしの場面に新たな風が吹き込まれていくのを観ていると、初演された時代に共にタイムスリップしていくような感覚も味わえて。実は骨太な男役である永久輝には淡い色彩の衣裳がよく似合う。そして、芝居作品共々、永久輝と星空のトップコンビの、さまざまな面での相性のよさを大いに感じさせる。夏バテも吹っ飛ぶパワーみなぎる二作品、暑い中での熱い上演だけに、出演者たちは健康第一で最後までENJOY!
 『阿修羅城の瞳』での礼真琴の病葉出門役の演技に、彼女がこれまで演じてきたさまざまな役柄を思い出していた。映画作品の宝塚化に挑戦することも多く、ひねりの効いた役柄が多い印象で、だからこそ、宝塚歌劇が劇団☆新感線作品に初めて挑む『阿修羅城の瞳』での退団というのも何だか納得が行く。闘う男・出門の華麗な殺陣に、「俺だけが弔ってやれる女がいる」の名ゼリフを残した『柳生忍法帖』の柳生十兵衛を思い出したり。出門のようにちょっとコミカルな役の印象も強く、芝居の代表作としては三谷幸喜監督映画が原作の『記憶にございません!』で演じた総理大臣黒田啓介が思い起こされるし、ショー&レビュー作品では『JAGUAR BEAT−ジャガービート−』のジャガーもやはりとぼけた味わいのキュートな役どころだった――なんせ、登場して最初に歌う歌詞が「I’m JAGUAR」で、「自己紹介?!」と即座にツッコミたくなるものがあるし、恋のお相手クリスタルバードにもとぼけたところを見せていた。
 歌と踊りに秀でた人だけに、星組生を率いてのド迫力のナートゥダンスを成功させた『RRR×TAKA"R"AZUKA〜√Bheem〜』のみならず、ショー&レビューでの代表作も多い。『JAGUAR BEAT−ジャガービート−』然り、『VIOLETOPIA』然り。レビュー『エスペラント!』は、作・演出の生田大和が、『JAGUAR BEAT』と『VIOLETOPIA』をも参考に内的世界を現出させたらこんなん出ましたけど〜な味わいも楽しい作品。鯨の中に人形師コッペリウス(暁千星)の支配する人形小屋が広がり、コッペリウスによって生み出された人形のうちの一体であるアルレッキーノ(礼真琴)が人間の女性と出会って自我に目覚める場面は、『JAGUAR BEAT』の<MACHINE GIRL>の場面の変奏曲風めいて――『JAGUAR BEAT』のナルキッソス=マーリン(暁)とアメイニアス(極美慎)の場面を思い起こさせる場面も。
 『エスペラント!』は千住明提供の壮大な楽曲「青い星」が用いられた同名場面の爽快さも印象に残るが、礼がロケットガールズと共に踊る場面もぐっと来る。宝塚大劇場では初舞台生たちとの共演だったこの場面は、すべてのタカラジェンヌはラインダンスからスタートするという事実を鮮やかに思い出させてくれる。そこで若い世代と共にフレッシュに踊っているのは、入団17年目、星組トップスターを5年弱務めて、今、宝塚歌劇の舞台を去ろうとしている人である。
 ――よくここまでたどり着いたな、と思った。1月に日本武道館で行なわれたコンサート『ANTHEM−アンセム−』のときも、……これより前に宝塚を去っていたら、この光景は観られなかったな……と思った。礼真琴が星組トップスターに就任してから、長きにわたってコロナ禍があった。大変そうだな、と思った。しんどいなら……とも思った。でも、礼真琴はそちらの道を選ばなかった。ときに休養も選択して、芸を磨き続けて、……宝塚の舞台が本当に好きだったんだな……という清々しい印象を観る者の心に残して、去っていく。天晴れである。

 星組個性派実力派が大いに活躍した『阿修羅城の瞳』。美稀千種扮する四世鶴屋南北が芯となるナンバーの楽しいこと。女形俵蔵、すなわち女を演じる男を軽妙に演じる男役輝咲玲央。十三代目安倍晴明役のひろ香祐もカラッと明るく大暴れ。この公演を最後に専科生となる小桜ほのか(そのニュースを聞いたとき、まだまだ宝塚の舞台で演技を見せてくれるんだ、と涙がこぼれた)が、声を妖しく操り鬼を率いる美惨を怪演。美惨に率いられた鬼の阿餓羅を演じる白妙なつと吽餓羅を演じる紫りらはこの公演をもって退団だが、集大成の舞台で彼女たち娘役の演じる鬼の迫力といったら! 白妙はかつて子役演技が非常に達者だったことを思い出して感慨深かったし、紫はオスカー・ワイルドの『理想の夫』が原作の『ザ・ジェントル・ライアー〜英国的、紳士と淑女のゲーム〜』で休演者の代役を務めたローラ(チーヴリー夫人)の演技が甦ってきた。童姿の鬼・笑死役の瑠璃花夏の不気味なかわいさ。やはり退団の二條華、都優奈が演じた渡り巫女たちもきっちり印象を残し、娘役の活躍も楽しめる舞台だった。賀茂白丞役の朝水りょう&賀茂南雀役の蒼舞咲歩のボケボケ兄弟も笑いを誘っていた。
 晴明の娘桜姫――劇団☆新感線の2000年版の舞台での森奈みはるの突き抜けたキュートさが忘れがたい――を演じたのは詩ちづる。桜姫の勢いのよさをコミカルに表現していた。詩は何だか最近舞台上で妙に硬くなっているときもあるように見えるので、リラックスして、宝塚の娘役だからこそ追求できる芸の楽しさをもっと味わってみたらどうかと思う。この公演の千秋楽翌日付で花組に組替えとなる極美慎は、はっちゃけた髪型も印象的な鬼御門の副隊長・安倍邪空役をかっこよく見せた。
 ヒロイン闇のつばきを演じたのは男役の暁千星。私は、宝塚の男役とは、女性が男性を演じることによって女性のさらなる可能性、美しさを追求し、拡張していくものだと思っているので、男役がこの役を演じるところに宝塚版の一つの肝を感じた。恋をして鬼となったつばきが出門の首に食らいつくとき、――生きていく上で人が他者をいかに必要とし、栄養としていくか、そのメタファーを目の当たりにしたようで慄然とした。
 劇団☆新感線の同名舞台が原作の『阿修羅城の瞳』(原作/劇団☆新感線「阿修羅城の瞳」<作・中島かずき>、原作演出/いのうえひでのり、潤色・上演台本・演出/小柳奈穂子)は、映画『RRR』『記憶にございません!』といった作品の宝塚版を主演として成功させ、宝塚歌劇の領域を広げてきた星組トップスター礼真琴の退団にふさわしい仕上がり。男役ながら今回ヒロインを務める暁千星の好アシストにより、芸術論も展開されて。星組の芸達者たちもうれしい大活躍! 『エスペラント!』(作・演出/生田大和)は色彩遣いが美しく、どこか懐かしさと新しさとが共存するレビュー。千住明提供の楽曲「青い星」が流れる場面の壮大さも印象に残る。
 『ROBIN THE HERO』では、朝美絢扮するロビン・ロクスレイ(ロビン・フッド)と夢白あや扮するマリアン・メイデンが、愛すみれ扮する尻尾の生えた魔術師ミス・オフィーリアの術により魂が入れ替わってしまうくだりがある。男役である朝美が女性を、娘役である夢白が男性を演じる。女性がすべての役柄を演じる上で男役/娘役という約束事のある宝塚歌劇においてチャレンジングな設定だが、雪組新トップスター朝美絢は、夢白の雰囲気をとらえつつもコミカルでチャーミングな演技を披露、朝美自身の女性としての魅力をもただよわせ、魂が元に戻った後は自身の男役像へとしっかり戻すコントロールのよさを見せた。夢白も、ドレスを着用しながら足を大股開きにするなどして威勢のよいセリフ回しを聞かせ、通常の娘役時とは異なる女性としての魅力を発揮していた。トリッキーな趣向をこなした二人の関係性は、ショー『オーヴァーチュア!』でもおもしろいところに着地していると感じた。夢白はここに来て、娘役道を追求した先にある生身の女性として舞台に立ち現れることを選択したかのようなのである。娘役でありながら生身の女性感を発揮していた先達としては、前宙組トップスター潤花という存在があったが、夢白の生身感は潤のそれともまた異なる。それが宝塚歌劇の舞台で成立しているのは、朝美をはじめとする雪組男役陣の芸、そして雪組娘役陣の芸がしっかりしているからなのだろうとも思う。新トップコンビが拓いていく地平が楽しみである。
 星組を経て、一年あまり専科で過ごし、その時期に外部出演もあった瀬央ゆりあは、彼女自身のエネルギーが役を通して上手く回るようになった感がある。『ROBIN THE HERO』で演じたガイ・ギズボーンは、同じ演出家による『JAGUAR BEAT−ジャガー・ビート−』(2022−2023)で演じたバファローの系譜にある野心の役どころだが、迫力の表現に成熟あり。義賊団の一人で詩人のスカーレット役の華純沙那にキュートな魅力。ミス・オフィーリア役の愛すみれは魂入れ替わりの際にB'zの「ultra soul」を妖しく熱唱、そのはっちゃけぶりに芸の上での頼もしさを感じた。
 この公演の千秋楽をもって宝塚を退団する久城あすが演じるのは酒飲みの修行僧タック・ベリー。名前の音もキャラクターも『夏の夜の夢』のパックに似ているし、奏乃はると演じるリチャード一世との関係性は何だか『ヘンリー四世』におけるハル王子とフォルスタッフの関係性を思わせるし、「ミス・オフィーリア」は出てくるし、こんなにいろいろシェイクスピアを混ぜ込むならいっそシェイクスピア・レビューはどうかしら(宝塚では昔、『ヘミングウェイ・レビュー』という作品があった)と考えてまず自分で思いついたのが、『マクベス』のバーナムの森が動いた! のラインダンスによる表現だったという(笑)。久城は下級生のときから達者な演技を見せる人で、月組の風間柚乃よろしく早々と新人賞候補から外してしまっていた覚えがある。タック役でも軽妙な演技を披露、物語のコメディ部分に貢献した。そのタックが飛ばした伝書鳩は、スカーレットに手懐けられていた。飛ばない鳥。
 夜間外出禁止令の出ているロサンゼルスで大谷翔平選手(ドジャース)の二刀流が久々復活した日に、独裁者の圧政に苦しむ19世紀初頭のロサンゼルス(途中で夜間外出禁止令も出ました)で二つの顔をもつ主人公が大活躍する舞台を観劇。ジプシー・キングスの楽曲でつづるミュージカルのタイトルロールで、宙組新トップスター桜木みなと、華麗にお披露目! 熱い歌唱、熱いフラメンコ、熱い芝居で、桜木率いる宙組のパワーが炸裂する。真摯な宝塚論をも展開し、トップお披露目にふさわしい作品に仕上げた潤色・演出の谷貴矢の手腕も光る。今宵はひとまずこれにて〜。