藤本真由
(舞台評論家・ふじもとまゆ)
1972年生まれ。
東京大学法学部卒業後、新潮社に入社。写真週刊誌「FOCUS」の記者として、主に演劇・芸能分野の取材に携わる。
2001年退社し、フリーに。演劇を中心に国内はもとより海外の公演もインタビュー・取材を手がける。
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宝塚
13時の部観劇(昭和女子大学人見記念講堂)。
作・演出は藤井大介。入団2年目の柚香光は藤井の手によるレビュー『Le Paradis!!』(2011)でパリの妖精フィーに扮した。舞台度胸のよさが実に鮮烈で、……すごい子が出てきたな……と。来年退団する柚香の宝塚生活を振り返る今回の公演は、そのフィーが成長した姿を見せていくという趣向。オープニング、『Le Paradis!!』の懐かしいメロディと共に、白い衣装の柚香が踊り出す、そのふわっと感がまさに妖精のよう――振付が柚香自身によるものとMCで聞いて驚いた(「R.Y.」名義)。他にもダンス・シーンがふんだんに盛り込まれ、手先足先のアクセントのつけ方、そこにただよう微妙なニュアンスなど、見どころいっぱい。今年3月、やはり踊れるトップスターとして鳴らした柚希礼音が黒田育世演出・振付のコンテンポラリーダンス作品『波と暮らして』に出演していて、非常によかったので(こちらの作品については後日書きます)、柚香も退団後ぜひコンテンポラリーダンス作品に挑戦してほしいと思った。星風まどかとのデュエット・ダンスでも、柚香が腕一本だけで星風の背中を支えて回すという、このトップ・コンビならではの難しいリフトを華麗に披露。
聖乃あすかが“白の男役”としての魅力を発揮。男役としては攻めた感じの長髪で登場した希波らいとの気迫。下級生にまで活躍の場を与えたいとの演出家の心配りも光る。本日の「日替りコーナー」では愛乃一真と龍季澪が登場、柚香がかつて『ME AND MY GIRL』で演じた弁護士パーチェスターのナンバー「家つき弁護士」の替え歌を3人で歌い踊った。歌詞と振付は愛乃と龍季によるもので、花組男役道が歌詞に織り込まれ、二人が柚香をはじめとする先輩たちの姿をどうとらえて芸に邁進しているのか、伝わってくるものがあった。このナンバーはパーチェスター以外の人物が歌う箇所があるが、そこは声色を変えてくるなど芸が細かい。続いては星風が「愛をこめて花束を」を熱唱、娘役たちを引き連れて踊り、宝塚の娘役なる存在へのエールを感じさせた。そして柚香が女性の姿(美脚もあらわなホットパンツ姿)で現れて「プレイバック Part2」を歌い、男役ならではの妖しい魅力を披露。出演者全員で登場し、柚香を中心に「僕のこと」を歌うラストは、花組生たちの柚香への思いがあふれて。
柚香がこれまで出演してきた作品からのナンバーで構成されている場面が多く、自然とこの間の花組の歴史をも振り返るところがある――藤井がこの間『EXCITER!!』『CONGA!!』といったヒット作を花組で連発してきたことをも思い出す。そして、下級生時代から飛び級のように活躍してきた柚香光という存在の礎となっているものを非常に興味深く感じた公演だった。
作・演出は藤井大介。入団2年目の柚香光は藤井の手によるレビュー『Le Paradis!!』(2011)でパリの妖精フィーに扮した。舞台度胸のよさが実に鮮烈で、……すごい子が出てきたな……と。来年退団する柚香の宝塚生活を振り返る今回の公演は、そのフィーが成長した姿を見せていくという趣向。オープニング、『Le Paradis!!』の懐かしいメロディと共に、白い衣装の柚香が踊り出す、そのふわっと感がまさに妖精のよう――振付が柚香自身によるものとMCで聞いて驚いた(「R.Y.」名義)。他にもダンス・シーンがふんだんに盛り込まれ、手先足先のアクセントのつけ方、そこにただよう微妙なニュアンスなど、見どころいっぱい。今年3月、やはり踊れるトップスターとして鳴らした柚希礼音が黒田育世演出・振付のコンテンポラリーダンス作品『波と暮らして』に出演していて、非常によかったので(こちらの作品については後日書きます)、柚香も退団後ぜひコンテンポラリーダンス作品に挑戦してほしいと思った。星風まどかとのデュエット・ダンスでも、柚香が腕一本だけで星風の背中を支えて回すという、このトップ・コンビならではの難しいリフトを華麗に披露。
聖乃あすかが“白の男役”としての魅力を発揮。男役としては攻めた感じの長髪で登場した希波らいとの気迫。下級生にまで活躍の場を与えたいとの演出家の心配りも光る。本日の「日替りコーナー」では愛乃一真と龍季澪が登場、柚香がかつて『ME AND MY GIRL』で演じた弁護士パーチェスターのナンバー「家つき弁護士」の替え歌を3人で歌い踊った。歌詞と振付は愛乃と龍季によるもので、花組男役道が歌詞に織り込まれ、二人が柚香をはじめとする先輩たちの姿をどうとらえて芸に邁進しているのか、伝わってくるものがあった。このナンバーはパーチェスター以外の人物が歌う箇所があるが、そこは声色を変えてくるなど芸が細かい。続いては星風が「愛をこめて花束を」を熱唱、娘役たちを引き連れて踊り、宝塚の娘役なる存在へのエールを感じさせた。そして柚香が女性の姿(美脚もあらわなホットパンツ姿)で現れて「プレイバック Part2」を歌い、男役ならではの妖しい魅力を披露。出演者全員で登場し、柚香を中心に「僕のこと」を歌うラストは、花組生たちの柚香への思いがあふれて。
柚香がこれまで出演してきた作品からのナンバーで構成されている場面が多く、自然とこの間の花組の歴史をも振り返るところがある――藤井がこの間『EXCITER!!』『CONGA!!』といったヒット作を花組で連発してきたことをも思い出す。そして、下級生時代から飛び級のように活躍してきた柚香光という存在の礎となっているものを非常に興味深く感じた公演だった。
『フリューゲル−君がくれた翼−』に関しては、先に『ロシアン・ブルー−魔女への鉄槌−』(2009、雪組)についてふれたけれども、その後何だか、『A-“R”ex−如何にして大王アレクサンダーは世界の覇者たる道を邁進するに至ったか−』(2007−2008、月組。作・演出=荻田浩一)の記憶も心の中で浮上してきて。“ハッピーエンド”にこだわり続ける主人公のドイツ民主共和国人民軍地上軍大尉ヨナス・ハインリッヒ(月城かなと)が、世界的ポップスター、ナディア・シュナイダー(海乃美月)からの西側に来ないかとの誘いを一度は退けるも、ベルリンの壁崩壊後に「もういいだろう」と軍章を胸から外して遠くに投げるラスト近くのシーンが心に残る。共和国を守り抜かんとする人民軍大尉ヘルムート・ヴォルフ(鳳月杏)が芯となっての社会主義パロディ場面については、振付家アレクセイ・ラトマンスキーが2003年にボリショイ・バレエで復活上演させた『明るい小川』(ドミートリイ・ショスタコーヴィチ作曲。1936年の初演の際はソ連共産党機関紙『プラウダ』で酷評された)をもどこか思い出し。東側の軍人を演じる月城のかっちりとした姿勢、立ち居振る舞い。6月の『DEATH TAKES A HOLIDAY』でヒロイン・グラツィアをどこか遠くを夢見るような発声で造形した海乃美月は、今回は、自由な世界へと主人公をいざなう、ド派手衣裳の奔放なポップスター役。不思議な人である――古風かと思いきやモダンで、でも、モダンかと思うと古風で、サバサバかと思いきやウェットで、でも、ウェットかと思うとサバサバで、という具合に何だか絞り切れない魅力を、芝居でもレヴューでも発揮。宙組公演『カジノ・ロワイヤル 〜我が名はボンド〜』の“007”ことジェームズ・ボンドのパロディのようなエージェント”00ワンダホー“(かつてのKDDの国際電話のCMのキャッチコピー「ゼロゼロワンダフル」を思い出した)ルイス・ヴァグナー役風間柚乃の気持ちよさそうな歌唱は、客席への波及力大。人民軍人ソフィア・バーデン役梨花ますみの鉄の女ぶりのおかしさ。「チルチルミチル」のコードネームで客席を湧かせる共和国諜報部員ミク・エンゲルス役の彩みちるは、娘役芸が洗練された今だからこそさらにはじけていってほしいと思う。
江戸時代から現代までの東京のさまざまな情景を背景に、花火師(月城かなと)と花魁(海乃美月)が輪廻転生しながら最終的に結ばれるまでを描く『万華鏡百景色』――陰陽師と妖狐が転生を繰り返す『白鷺の城』(2018、宙組)も思い出す趣向。戦後の闇市でドン(月城かなと)と警官A(風間柚乃)が歌うのが『三文オペラ』の「大砲の歌」というのがおもしろい。「目抜き通り」に乗っての月城かなと&海乃美月のデュエットダンスに晴れやかさ。鳳月杏は芝居&レヴュー共々さらに気合が入った感あり。大正時代のモダンガール役彩みちるの踊りの伸びやかさ。
本日の千秋楽をもって退団する蓮つかさは、優しい甘いマスクの男役。『今夜、ロマンス劇場で』(2022)で、映画の中から飛び出したお姫様を守る三獣士の一人、狸吉役でほっこりキュートな魅力を見せていたのが印象深い。『フリューゲル−君がくれた翼−』では、ヨナスの母(白雪さち花)の過去を知る弁護士ニコラ・シューバルト役。スーツ姿で、誠実であたたかみのある芝居を見せた。『万華鏡百景色』では、シティ・ポップを用いた中詰、シュガーベイブの「DOWN TOWN」(世代的に、『オレたちひょうきん族』のエンディングテーマだったEPOによるカバー・バージョンが馴染み深い)が流れる場面に登場、抜け感のある洒落たムードを歌と踊りで体現していた。
江戸時代から現代までの東京のさまざまな情景を背景に、花火師(月城かなと)と花魁(海乃美月)が輪廻転生しながら最終的に結ばれるまでを描く『万華鏡百景色』――陰陽師と妖狐が転生を繰り返す『白鷺の城』(2018、宙組)も思い出す趣向。戦後の闇市でドン(月城かなと)と警官A(風間柚乃)が歌うのが『三文オペラ』の「大砲の歌」というのがおもしろい。「目抜き通り」に乗っての月城かなと&海乃美月のデュエットダンスに晴れやかさ。鳳月杏は芝居&レヴュー共々さらに気合が入った感あり。大正時代のモダンガール役彩みちるの踊りの伸びやかさ。
本日の千秋楽をもって退団する蓮つかさは、優しい甘いマスクの男役。『今夜、ロマンス劇場で』(2022)で、映画の中から飛び出したお姫様を守る三獣士の一人、狸吉役でほっこりキュートな魅力を見せていたのが印象深い。『フリューゲル−君がくれた翼−』では、ヨナスの母(白雪さち花)の過去を知る弁護士ニコラ・シューバルト役。スーツ姿で、誠実であたたかみのある芝居を見せた。『万華鏡百景色』では、シティ・ポップを用いた中詰、シュガーベイブの「DOWN TOWN」(世代的に、『オレたちひょうきん族』のエンディングテーマだったEPOによるカバー・バージョンが馴染み深い)が流れる場面に登場、抜け感のある洒落たムードを歌と踊りで体現していた。
名門ヘアフォード家を守らんと奮闘するマリア公爵夫人役の小桜ほのかが快演怪演。亡き兄、すなわちビル(水美舞斗)の父親に対して妹としてどんな感情を抱いていたか、緻密な役作りに想像があれこれふくらんで。そんなマリアを長年ひそかに愛し続けてきたジョン卿(暁千星)――物語冒頭から、恋心を言い出せない気弱さを酒を飲むことでまぎらわしてきた哀愁がにじむ――が、マリアへのその愛ゆえに、マリアの願いもビルの願いもビルの恋人サリー(舞空瞳)の願いも粋にかなえる大団円に涙。――伝統を守り続けていくこと。守り続けていくためにも、ときには新しい風が必要であること――。小桜は、フィナーレでの「ME AND MY GIRL」の歌唱も、マリアの中になおもある乙女心を表現していて◎。
小刻みな役替わり公演、ビルとジョン卿で役替わりしている水美舞斗と暁千星はもちろんのこと、周りのキャストも大変だろうな……と。二人のビルの相手を務める舞空瞳のサリーは、心がぐわんぐわん揺れるところが非常に人間らしくていい。
小刻みな役替わり公演、ビルとジョン卿で役替わりしている水美舞斗と暁千星はもちろんのこと、周りのキャストも大変だろうな……と。二人のビルの相手を務める舞空瞳のサリーは、心がぐわんぐわん揺れるところが非常に人間らしくていい。
演者が変われば物語も変わる!
25日に博多座で観劇した際、暁千星のビルが提示する「。(句点)」ではなく「、(読点)」の辛口ハッピーエンドに鈍い衝撃が走り、……舞空瞳のサリーもよくついていっているな……と感じ入ったのですが、本日の舞台は身分と愛をめぐる闘争の物語が絶妙のバランスで着地してますますよかった! マリア公爵夫人役小桜ほのかのナイス・アシストが物語の奥行に深みを与えて。ジョン卿役水美舞斗のほっこり感。周りも弾んで◎。明日の役替わりライブ配信も楽しみ!
ちなみに、『ME AND MY GIRL』ライブ配信終了後、日本シリーズ「オリックス対阪神」へとスイッチ、阪神強いな……と。小林一三は宝塚歌劇団と阪急ブレーブスを創設したけれども、ブレーブスは近鉄バファローズと一緒になってオリックス・バファローズとなり、阪急と阪神が経営統合したから今や阪神タイガースが阪急グループ。そして舞空瞳はオリックスの広告に出ているのであった。
ちなみに、『ME AND MY GIRL』ライブ配信終了後、日本シリーズ「オリックス対阪神」へとスイッチ、阪神強いな……と。小林一三は宝塚歌劇団と阪急ブレーブスを創設したけれども、ブレーブスは近鉄バファローズと一緒になってオリックス・バファローズとなり、阪急と阪神が経営統合したから今や阪神タイガースが阪急グループ。そして舞空瞳はオリックスの広告に出ているのであった。
火花散る舞台、「ランベス・ウォーク」の前のビル(暁千星)のセリフから涙!
12時の部観劇(博多座)。暁千星のビルが舞空瞳のサリーと共に体現する世界が非常に興味深く、英語台本にあたってみたく。28日&29日にはライブ配信あり。
ベルリンの壁崩壊前夜の東ベルリンを舞台に描く『フリューゲル−君がくれた翼−』は、『JAGUAR BEAT−ジャガービート−』のスマッシュ・ヒットも記憶に新しい齋藤吉正作・演出のミュージカル。月城かなと扮する東ドイツの軍人と海乃美月扮する西ドイツの世界的ポップスター、二人のポンポン弾むやりとりも楽しい。『ベルサイユのばら』オマージュもあり、宝塚におけるさまざまな先行作品の文脈を踏まえて作られており、10月24日にタカラヅカ・スカイ・ステージで放送される『ロシアン・ブルー−魔女への鉄槌−』(2009、作・演出:大野拓史)の視聴もあわせてお勧めしたく。“東京詞華集(トウキョウアンソロジー)”の角書がついた『万華鏡百景色』は、栗田優香の大劇場公演デビュー作となるレヴュー。シュガー・ベイブの「DOWN TOWN」等、近年世界的に注目されるシティ・ポップの数々で中詰を展開、椎名林檎とトータス松本の「目抜き通り」をフィナーレに用いるなど、選曲も新鮮。銀座を舞台にした場面も多く、劇場帰りに銀ブラしたくなる作品。月城かなと&海乃美月は本当にいいトップ・コンビになった!
『鴛鴦歌合戦』は1939年(昭和14年)公開の日活のオペレッタ時代劇映画が原作(監督:マキノ正博、脚本:江戸川浩二。宝塚版は脚本・演出:小柳奈穂子)。藩の跡目争いの要素を加え、映画の原曲にオリジナル楽曲を合わせた構成。歌舞伎のパロディも入っていて、基本的には楽しいコメディ作品。花組トップスター柚香光は、主人公の貧乏浪人浅井礼三郎の、どこかニヒルであるが故にかあちこちの女心を吸引している様を魅力的に表現。礼三郎の許婚に思いを寄せる秀千代役の聖乃あすかにほっこりとぼけた味わい。主人公に首ったけで、ヒロインお春(星風まどか)の一番の恋のライバルとなるおとみ役の星空美咲が、恋心のあまりお春にちょっと意地悪してしまったりするお嬢様の純情をかわいらしく見せた。実は礼三郎は藩主につながる血筋であることがラストで明かされるのだが、それまでも彼と交流のあった藩主の母で尼僧の蓮京院役の京三紗(専科)が、……我が子だったなんて! しかもいい男に育って! と、しっとりしみじみの果てに見せるちゃっかり感がツボ。藩のお家騒動を解決すべく奮闘する家臣の蘇芳役に紫門ゆりや(専科)――出てくると芝居が引き締まる。
『GRAND MIRAGE!』(作・演出:岡田敬二)では、クラシックな香りのレビューに、男役柚香光が体現するシャープな現代性が味わいを添える。聖乃あすかも熱唱を聴かせた。
『鴛鴦歌合戦』で、花咲藩藩主峰沢丹波守(演じる永久輝せあは、宝塚の舞台を、男役をもっとENJOY!)が藩政をおろそかにして女遊びと骨董収集にうつつを抜かす真の理由を一人知るその正室麗姫役で、これが退団となる春妃うららが、コメディのツボをきちんと押さえた演技を披露。2011年入団で最近では大人っぽい役も任されてきた春妃だが、本来の持ち味である可憐さも大いに生きる役どころだった。『GRAND MIRAGE!』の第22場、3組の紳士と淑女が歌い踊るシーンでは、紫門と春妃が組み、やはりこの公演で退団となる航琉ひびき、和海しょうも登場。紫門の男役としての包容力もあり、春妃の娘役としての魅力が存分に引き出され、航琉、和海の歌唱も味わえて、クラシックな香りのする作品の中でもとりわけ正統派の魅力をたたえた、印象深い餞の場面となっていた。
『GRAND MIRAGE!』(作・演出:岡田敬二)では、クラシックな香りのレビューに、男役柚香光が体現するシャープな現代性が味わいを添える。聖乃あすかも熱唱を聴かせた。
『鴛鴦歌合戦』で、花咲藩藩主峰沢丹波守(演じる永久輝せあは、宝塚の舞台を、男役をもっとENJOY!)が藩政をおろそかにして女遊びと骨董収集にうつつを抜かす真の理由を一人知るその正室麗姫役で、これが退団となる春妃うららが、コメディのツボをきちんと押さえた演技を披露。2011年入団で最近では大人っぽい役も任されてきた春妃だが、本来の持ち味である可憐さも大いに生きる役どころだった。『GRAND MIRAGE!』の第22場、3組の紳士と淑女が歌い踊るシーンでは、紫門と春妃が組み、やはりこの公演で退団となる航琉ひびき、和海しょうも登場。紫門の男役としての包容力もあり、春妃の娘役としての魅力が存分に引き出され、航琉、和海の歌唱も味わえて、クラシックな香りのする作品の中でもとりわけ正統派の魅力をたたえた、印象深い餞の場面となっていた。
5月16日11時の部観劇(東京建物 Brillia HALL)。1994年に雪組で初演された作品の再演(作・演出:正塚晴彦)。舞台は架空の連邦国家。「上官殺害事件」の被告となった一人の青年士官(柚香光)が、若き日の闘いを振り返り、語り出す――連邦軍基地と、連邦からの独立を目指す自治州の少数民族との間に軍事的衝突の恐れが高まる中、自ら志願してその地に赴任した彼は、立場や民族の違いを越えての人と人とのつながりを知り、恋を知り、そして、「事件」は起こる。信念を貫いて生きること。他者を尊重して生きること。人間同士の本音でのぶつかり合い、その緊張感に劇場中が息を呑むようにピンと張りつめた時間が、心に忘れがたい刻印を残して。主人公が、長年離れ離れに生きざるを得なかった愛する人(星風まどか)と遂に再会を果たす結末に、創り手が、受け手、観客に寄せる深い信頼の念を感じた。花組トップスター柚香光が緊迫感に満ち満ちた作品の芯をきりっと務め上げ、専科から出演の高翔みずき、凛城きらの二人が、立場を越えての友情をくっきり描き出す。軍曹役の羽立光来の男性の逞しさの表現もよかった。