並木陽の小説『斜陽の国のルスダン』を原作とする『ディミトリ〜曙光に散る、紫の花〜』(脚本・演出:生田大和)は、13世紀のジョージア女王ルスダン(舞空瞳)と、ルーム・セルジュークからジョージアへ人質として送られ、ルスダンの夫となって彼女を助けることとなる王子ディミトリ(礼真琴)の波乱の運命を描く作品。ジョージアを舞台にした作品は宝塚歌劇でも珍しく、ジョージアンダンス(振付:ノグチマサフミ)も見応えがあった。太田健による楽曲に壮大さ(指揮:西野淳)。

 『JAGUAR BEAT−ジャガービート−』(作・演出:齋藤吉正)。名もなき星で生まれたJAGUAR(礼真琴)がクリスタルバード(舞空瞳)に恋をして、彼女、そしてマーリン(暁千星)に奪われた彼女の片翼を追いかけて未知の世界を旅する、そんなストーリー仕立てのショー。電飾がキラキラきらめく中、バッハの「G線上のアリア」から女子プロレスラーのジャガー横田が1983年にリリースした「愛のジャガー」(石原信一による「♪愛は惜しみなく奪うもの」なる歌詞に、有島武郎だ! と)まで、実に多彩な楽曲とオリジナル・ナンバーで55分間を疾走していく(作曲・編曲:手島恭子、青木朝子、長谷川雅大、多田里紗。指揮:西野淳)。場面ごとの区切りがほとんどないように感じられるため、体感時間、あっという間。
 シーンにもキャラクターにも音楽にも歌詞にも、演出家の過去作の数々がちりばめられている。例えば、主題歌「JAGUAR BEAT」(作詞:齋藤吉正)。
「♪花よ教えておくれ 愛とはなんだ
  月よ教えておくれ 照らす道の彼方
  雪よ教えておくれ あの声は誰
  宙よ教えてくれ
  満天の星よ教えてくれ
  俺のSTORY」
 手島恭子作曲のせつないメロディに乗って、たたみかけるように、かみしめるように、花、月、雪、星、宙、宝塚全5組への言及がなされるこのくだりにおいて、齋藤は、問いかけ、問いかけ歩んできた、宝塚の座付き作家としての自身の軌跡を振り返る。「満天の星」は、演出家が宙組で手がけた『満天星大夜總会―THE STAR DUST PARTY―』(2003)と、今の星組の状態との掛詞。「月よ教えておくれ 照らす道の彼方」については、夫の指摘により気づいたのだが、齋藤が月組で手がけた『Misty Station−霧の終着駅−』(2012)と二本立てで上演された『エドワード8世−王冠を賭けた恋−』のナンバー「退位の歌」の「♪私だけの遥かに続く道 信じよう その彼方に君がいるのなら」(作詞:大野拓史)を想起させる。「あの声は誰」だったんでしょうね……。それはさておき。過去作をちりばめながらも、それが決して単なる回顧、懐古ではなく、まだ見ぬ未来へとこれからも大いに羽ばたいていく決意と希望を感じさせるところがいい。
 クライマックスの第23場で、――はっきり、幻覚を見た。銀橋前を駆け抜けていくホログラムの如きジャガーの姿。その背中に、バード。先端技術を用いなくても人間の感覚は拡張され得るのだなと……。帰宅後。ふとした瞬間に、演出家の過去作の音楽的記憶が、後から後からとめどなく甦ってくる。齋藤吉正作品は中毒性が高いことで知られているが、その後一週間ほど、1月2日にNHKで放送された録画を毎日観ないとおさまらない状態になった。そんな作品の奥深い魅力についてはまだまだ探究を続けたく。
 JAGUAR役の礼真琴の「かわいい+かっこいい=かわいかっこいい」個性が存分に引き出され、クリスタルバード役の舞空瞳は全編通してかわいさ爆発。演出家の過去作の数々のキャラクターが投影されたバファロー役の瀬央ゆりあは、齋藤作品と相性がいいところを発揮。物語をかき回すマーリン役の暁千星のクールな美しさ。そして、星組生たちの輝き。第23場で、本日の千秋楽をもって退団する遥斗勇帆が、高らかに歌い上げる――そのとき、その組に在籍する生徒たちを舞台上で最大限に輝かせる、それが宝塚歌劇の座付き作家の務めである。そんな演出家の心の叫びが聞こえてくるようである。
 作・演出は指田珠子。第一幕は“毒”が綺麗に昇華されている作品なのだけれども。装置(國包洋子)、衣装(加藤真美)が優美。音楽的な試みもおもしろい(作曲・編曲:青木朝子、多田里紗)。
 主人公ヨハン・ストルーエンセを演じる朝美絢は、もっと強い性格付けが欲しいような。フィナーレでぐっと求心力を発揮したところはとてもよかった。

(2月8日13時の部、KAAT神奈川芸術劇場ホール>
 作・演出は齋藤吉正。創造に人生をかけてきた人間の成長譚であり、優れた宝塚歌劇論でもあると同時に、過去・現在・未来において宝塚歌劇を愛するすべての人々を大きな愛で包み込む、傑作ショー作品!
 朝6時15分〜7時45分、星組『JAGUAR BEAT−ジャガービート−』の放送があります。
 ベストは、宙組『NEVER SAY GOODBYE−ある愛の軌跡−』(作・演出:小池修一郎、作曲:フランク・ワイルドホーン)&月組『グレート・ギャツビー−F・スコット・フィッツジェラルド作“The Great Gatsby”より−』(脚本・演出:小池修一郎)。主演の宙組・真風涼帆、月組・月城かなとの輝き。
 ショー・ジャンルのベストは、宙組『Capricciosa!!−心のままに−』(作・演出:藤井大介)。
 本公演(本拠地である宝塚大劇場&東京宝塚劇場での公演)以外の劇場公演のベストとしては、配信視聴となったが、花組『TOP HAT』(梅田芸術劇場メインホール、脚本・演出:齋藤吉正)。
 『NEVER SAY GOODBYE』でちょっとマッドな権力者、主演作『カルト・ワイン』でワインを偽造する詐欺師、『HiGH&LOW−THE PREQUEL−』で不良をはかなげに演じた宙組の桜木みなとに、敢闘賞。独特の雰囲気を濃厚に香らせる男役・紫吹淳の主演で1998年に初演された作品を、今の時代を生きる感性と思考、そして人物を細やかに構築する演技力で蘇らせた月組『ブエノスアイレスの風−光と影の狭間を吹き抜けてゆく…−』(作・演出:正塚晴彦)主演の暁千星(現星組)に、技能賞。
 2023年の宝塚歌劇の舞台も希望と幸せに満ちたものでありますように。
 原作は、清代の中国を舞台にした浅田次郎の長編歴史小説『蒼穹の昴』。脚本・演出は原田諒。
 専科のベテラン勢の芸が楽しめる作品。カッサンドラをも思い起こさせる、星占いの秘術をもつ老女・白太太役の京三紗の演技。伊藤博文役の汝鳥伶の慈愛に満ちた演技に、生き抜くことの大切さを思い。西太后を演じる一樹千尋は、妖艶にして、ときに主人公のようにも見える堂々たる存在感を発揮――その心、思いやり、“稀代の悪女”とされる人間の異なる一面を描き出した。大学者として国に対する瑞々しい思いを感じさせる夏美ようの楊喜驕B悪役に徹した栄禄役の悠真倫。凪七瑠海は李鴻章役できりっとした魅力を見せた。雪組生では、自宮して宦官となり西太后に仕える李春児を演じた朝美絢が、持ち前の人懐っこい魅力を見せ、京劇の場面でも熱演。進士・順桂役の和希そらが静かなたたずまいの中に燃やす闘志。そして、譚嗣同役の諏訪さきが、この作品をもって退団となる朝月希和演じるヒロイン李玲玲を愛する役どころで、男役としての包容力を大いに発揮する好演を見せた。朝月は、フィナーレの彩風咲奈とのデュエットダンスでの背中の反りがすごかった。ショースターであるだけに、一本物作品での退団は惜しい――退団後、宝塚でトップ娘役を務めた経験を活かして、その芸がますます磨かれていくのを楽しみにしている。宝塚を愛する心で、舞台と客席をいい感じにつないでいた千風カレンもこの作品で卒業である。紫禁城での華やかな舞踊シーンで個性と輝きを振りまいていた。
 8月28日視聴。
 持って行き場のないやるせない感情、愛。新口村の場面での、孫右衛門役汝鳥伶の酸いも甘いも嚙み分けた演技がとてもよかった。
 第二幕の道行の場面だが、舞台上に<千日前>と札が出て忠兵衛と梅川が駕籠を降りる。続いて<道頓堀>と出て、そこに「愛染明王」がある。原作及び現代語訳に当たってみたが、愛染明王すなわち愛染堂勝鬘院(所在地は大阪市天王寺区)において、道頓堀の人々について触れているくだりはある。また、梅川のいた新町遊郭から新口村を目指す場合、千日前まで行ってから道頓堀に戻るのは、追われている二人にとっては時間のロスのように思われ、何だかもやもやする。

参照:新編日本古典文学全集 (74)『近松門左衛門集(1)』(小学館)
  『曾根崎心中 冥途の飛脚 心中天の網島 現代語訳付き』(角川ソフィア文庫)
 進化し続ける月組トップコンビ、月城かなと&海乃美月を中心に、フレッシュな活躍も目立つ楽しい二本立て公演でした。後日ゆっくり書きます〜。
 ブラック・ジャックなる存在に仮託された死生観をかみしめながら観ており。
 月組全国ツアー福岡市民会館公演『ブラック・ジャック 危険な賭け』『FULL SWING!』ライブ配信観ます。