指揮:フランチェスコ・ランツィロッタ(管弦楽:東京フィルハーモニー管弦楽団)。このオペラを聴くといつも出だしから問いかけられているように感じるのだけれども、今日においても通じるその鋭い問いかけとさまざまな論点が明快に伝わってくる舞台だった。

(19時の部、新国立劇場オペラハウス)
 14時の部観劇(新国立劇場オペラパレス。指揮:レナート・バルサドンナ、演出:ステファノ・ヴィツィオーリ、管弦楽:東京交響楽団)。耳福〜。折りたたみ式ドールハウスみたいな家の装置もかわいく(美術:スザンナ・ロッシ・ヨスト)。それにしても、この物語が始まる前にドン・パスクワーレは相当恨まれていたのかな……とでも考えないと、彼への仕打ちがあまりにひどいような。タイトルロールを歌ったミケーレ・ペルトゥージのコミカルなしぐさがときにエレガントですらあるのを観ていて、よけいにそう思い。
 『シモン・ボッカネグラ』は、14世紀の実在のジェノヴァ共和国の総督を主人公に据えたジュゼッペ・ヴェルディ作曲のオペラである。自分の判断が多くの人々の命に関わってくる総督という立場。そんな存在に仮託されたものに思いを馳せた。今年上演された『リゴレット』でもタイトルロールを演じたロベルト・フロンターリがシモン・ボッカネグラ役。オペラを聴いていて初めて男性役について歌ってみたいなと思った、そんな演技、歌唱だった。
 6月28日鑑賞。作曲:テレンス・ブランチャード、台本:マイケル・クリストファー、指揮:ヤニック・ネゼ=セガン、演出:ジェイムズ・ロビンソン、振付:カミーユ・A・ブラウン。実在の黒人スター・ボクサー、エミール・グリフィスを主人公に描くオペラ。セント・トーマス島からニューヨークに出てきたグリフィスは、ボクサーとしての才能を見出され、頭角を現す。対戦に際し、王者ベニー・ペレットに「maricón」(スペイン語で同性愛者に対する差別語)となじられた彼は、相手を昏睡状態に陥るまで殴り続け、ペレットはそのまま意識が戻ることなく死ぬ(ペレットの方も健康上何らかの問題を抱えていたことが作中示唆される)。チャンピオンとしての栄光を味わうも、ペレットへの贖罪意識に苛まれ続け、「ボクサー脳症」にも蝕まれていくグリフィス。認知症になった彼が、ペレットの息子と会う日がやってきて――。「歌手か野球選手か帽子作りで成功したい」とグリフィス青年が希望を歌う場面のラテンのお祭りムードや、臨場感あふれるリングでのボクシング・シーンなど、見どころいっぱい。グリフィスを捨てた母親、捨てられたグリフィスを虐待するいとこ、グリフィスが出入りするゲイバーのマダムなどいたって強烈な個性をもつ女性キャラクターが次々と登場するが、それぞれが適度な距離感と冷静さをもって描かれている。その距離感と冷静さは作品全体に貫かれているものでもあって、だからこそ、グリフィスの生きた人生が提示する諸問題がひしひしと胸に迫ってくる。ラスト、ペレットの息子がグリフィスに、赦しは自分自身の中にしかないと言う、それはもう、絶対そう言うんだろうな……と事前にわかるものがあっても、やはりそこでそう言葉にされることの意味は非常に大きいと感じた。
 5月12日19時の部観劇(ミューザ川崎シンフォニーホール)。指揮:ジョナサン・ノット、演出監修:サー・トーマス・アレン、合唱:二期会合唱団、管弦楽:東京交響楽団。……頼もしき年下のcollaboratorを得て、“闘い”、頑張る! な話であったか。
 タイトルロールを歌ったニコラ・アライモが、声もよく、大きなお腹を突き出してのコミカルな演技もノリノリで楽しかった。  
 見立てであったか。初めて気づき。この日、午後から、「今晩『こうもり』観に行くんだよ〜」と家でメロディを口ずさんでいたのですが、浮かれて歌ってる場合じゃなかったかしら、みたいな。そして、「♪ドイツは狙ってる/帝国の分裂を」と、『エリザベート』の「独立運動」の一節を歌いたくなり。日本で言うなら、バブル経済崩壊後にディスコのお立ち台ブームが最高潮を迎えたみたいな感じもちょっとあり……? とイメージしたり。

(12月6日19時の部、新国立劇場オペラハウス)
 11月15日19時の部観劇(新国立劇場オペラハウス)。67歳にして至った境地、ジュゼッペ・ヴェルディの音楽の素晴らしさ(指揮=大野和士、管弦楽=東京フィルハーモニー交響楽団)。芸術のマジカルさを分かち合えた夜。
 ムゼッタ役ヴァレンティーナ・マストランジェロの演技に共感。

(14時の部、新国立劇場オペラパレス)
 実在のボクサー、エミール・グリフィスを題材にしたテレンス・ブランチャード作曲の『チャンピオン』メトロポリタン・オペラ初演版のライブビューイング。今日的なテーマを扱う手腕のあざやかさ。志とエンターテインメント性の高さ。すばらしいパフォーマンスに圧倒された3時間10分。東劇での上映は明日29日まで。