『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』第9話、すごい回だな……と思って観ていたら最後の最後でえ〜〜〜〜〜と声が出た。まだ余韻が。
 たまに場所に“呼ばれる”ときがある。昨日、渋谷での観劇の際、コンビニを探して坂を登ったら、――思いもかけず、道頓堀劇場の前に立っていた。『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』のWS劇場のモデルとなった場所。坂の傾斜具合からしてテレビの中の光景とあまりに似ていて、物語の中の人々に会えそうで、入り口の向こうの空間に引き込まれそうになったのだけれども、……劇団クベシアターのシェイクスピア公演をやっているわけじゃないよ、と思いとどまり。隣は無料案内所で、来た道をそのまま進んで行くと、ラブホテルの隣に神社も。渋谷でもほとんど行かない界隈。異世界に彷徨い込みそうな逢魔が時前。
 倖田リカ(二階堂ふみ)が歌舞伎町のソープランドで働いて120万円を用立ててくれれば、自分は東京湾に浮かばなくて済む、リカの元情夫トロ(生田斗真)はそう言ってくる。立ち向かう久部三成(菅田将暉)を、トロは喫茶店「テンペスト」でナイフで脅す。一度は引き下がる久部。だが、リカのファンである八分坂神社の宮司江頭論平(坂東彌十郎)が家宝の七福神を120万円の代わりにトロに渡そうとしていることを論平の娘樹里(浜辺美波)に教えられ、再びテンペストに乗り込んでいく。
 喫茶店とナイフ、そして演出家蜷川幸雄といえばすぐさま思い出す。――1972年、演出家は見知らぬ青年に誘われて喫茶店に入り、今、希望を語れるかと問われる。語らないと答えた演出家に、彼の演出舞台を観ていたという青年は、テーブルの下に隠していたジャックナイフを出し、希望を語ったら刺すつもりだったと言う。このとき、演出家は、「『客席の暗がりには千のナイフが潜み、千のまなざしが突きつけられている。それに対峙する覚悟をもたなくては』という考えを持つ』(『蜷川幸雄の仕事』の年譜より引用)。演出家の著書『千のナイフ、千の目』の題名の由来ともなったエピソードである。
 このエピソードを踏まえての、第8話。――久部は、ナイフをもったトロと対決すべく、警官大瀬六郎(戸塚純貴)の拳銃を持ち出した、つもりだった。テンペストのマスター風呂須太郎(小林薫)に店内を血で汚されたくないと言われ、トロに「表に出ろ!」と言う久部――あひるブログを見てみたら、生田斗真は『いだてん』9回目でも同様のセリフを言われていた――。だが、その拳銃は、舞台監督伴工作(野間口徹)が毛脛モネ(秋元才加)の息子朝雄(佐藤大空)に作ってあげたものだった! 途中まで本物の拳銃だと信じてトロと対峙していた久部は、蓬莱省吾(神木隆之介)にそのことを知らされ、でも、引くに引けずにそのまま対峙し続ける。つまり、演技の力でトロと向き合い、勝つ。このとき久部を支えたのは、名優是尾礼三郎(浅野和之)がクベシアターのみんなのために開催した演技の講義で聞いたばかりの言葉の受け売り、「芝居に大事なのは自分を信じる心だ」。脚本家三谷幸喜は、ここに、真の演技の力によって闘う者すべてへの力強い励ましとなる場面を創り出した。そして、芝居に目覚めたトロが「劇団天上天下」の『ハムレット』フォーティンブラス役のオーディションを受けに行くオチは、脚本家の心からの優しさにあふれて。
 役者がさまざまな演技の重層を演じることができなければそもそもすべては成立しないことを胸に刻んで。
 伴さんの作る小道具のクオリティがすごい、と思った。トロがリカと男女の関係にあるのではと疑う久部に二度「関係者です」で押し通すクールなところもいい。是尾礼三郎を演じる浅野和之自身が演技の講義をしていたらどんなことを話すんだろうと思ったり、でも、それを劇場空間やドラマで観ているところもあるんだなとも思ったり。大ファンのリカ相手に江頭論平役坂東彌十郎が見せるかわゆさ、かっこよさ(坂東彌十郎も「吉例顔見世大歌舞伎」夜の部『三谷かぶき 歌舞伎絶対続魂(ショウ・マスト・ゴー・オン) 幕を閉めるな』でいろいろおもしろいことになっています!)。仮歯(ひょうろく)が弱々しくも久部とトロの対決を何とかしようとしてくれているのがうれしかった。そして、七福神の値打ちをすぐさま見抜いたり、「表でやってくれ」と口を出したり(おもちゃって、わかってた?)、小林薫が演じる風呂須太郎は本当に謎の人。
 この回から第2部ということで、なかなかにヘビーな展開。
 シェイクスピア俳優、是尾礼三郎(浅野和之)を口説き落とし、自作舞台に出てもらうことになった久部三成(菅田将暉)。だが、是尾は『冬物語』のリオンティーズをやりたいと言う――リオンティーズの魅力について語る姿、キラキラ。ということで昼は『冬物語』の稽古、夜は『夏の夜の夢』公演というハードスケジュールとなり、しかも久部はパックに加えてボトム役も。でも客入りは伸びず、WS劇場のオーナー、ジェシー才賀(シルビア・グラブ)に約束した額の売上金を納めるため、支配人の浅野大門(野添義弘)は父親が戦前入手した鎧を古道具屋に売る――だが、オーナーはすべてお見通しだった。『冬物語』初日、震える是尾の手――アル中! 高いところにある小窓から抜け出して酒を買いに行っちゃう是尾、身軽すぎである。飲んじゃっても舞台は最高な是尾に久部は非常にうれしそう、このままではまずいと告げる蓬莱省吾(神木隆之介)の言葉にも耳を貸さず、せつなそうな表情を浮かべる蓬莱。
 フジテレビのプロデューサー役で新納慎也、登場。テレビに出ないかと王子はるお(大水洋介)を誘いに来たのだった。ただし、彗星フォルモン(西村瑞樹)とのコンビでではなく、はるお一人で――先週観ていて少し哀しい予感がしていたのですが、やはり『ヘンリー四世』のハル王子とフォルスタッフ的展開、来た。はるおに相談され、久部はテレビ出演の話を受けろと言う――このとき左手で握手するのが気になる。しかし、そうなると自分の方の舞台は降板することになると聞いて今度はまったく反対のことを言う。そしてはるおがプロデューサーにポケットマネー150万円をもらったと聞き、預かると言い出す――このあたりの弁舌巧みさは『リチャード三世』か。はるおはフォルモンにそのお金を渡してほしいのだが、はるおも疑う通り久部は着服してオーナーへの今後の上納金に充てようとする。八分坂の雑踏にオープンカーではるおを迎えに来るその父親、大物芸人ポニー田中(堺正章、特別出演!)。フォルモンとはるおの哀しい別れ――コンビ解散の哀しさが、シェイクスピア作品と重なる形で描かれる。フォルモン役西村瑞樹の演技にペーソスあり。『夏の夜の夢』の演技も、――何だかシェイクスピアの魅力に目覚めてる? と感じたり。
 久部! それは人としてやっちゃいかんよ! と、ハラハラ。君のせいでフォルモンとはるおの仲もめちゃめちゃである。でも、是尾の演技や一人自主練のトニー安藤(市原隼人)の演技に感涙する姿を観ていると、――憎めない。芸術のためには何がどこまで許されるのか。演出助手の助手の助手になった江頭樹里(浜辺美波)が食べていた渋谷の甘栗、食べたことあったかな? と苦さをやり過ごし。

(11月12日22時、リアルタイム視聴)
 ――もしもこの世が舞台なら、舞台評論家はこの世評論家? それはさておき。
 明かされる是尾礼三郎(浅野和之)の正体――蜷川幸雄演出の『ハムレット』(日生劇場での上演はなかったと思うので、ここはフィクションかと)にクローディアス役で出演、演出家を「ニーナ」呼び(こう呼ぶ人、知り合いにいます)。イギリスの巨匠演出家ピーター・ブルックの名前まで出てきた。「CXの横澤さん」も、フジテレビの有名な横澤彪プロデューサーだ〜と。
 初日の舞台の出来はさんざん、でも打ち上げは行なわれる――内装が素敵なジャズ喫茶「テンペスト」、行きたすぎる。その席で問題が起こり、しょげる久部三成(菅田将暉。今回も没頭する者の狂気を感じさせて、いい)に「劇団ってのは、そういうもんですよ」と声をかけるのが、唐十郎の劇団「状況劇場」にいた小林薫演じるテンペストのマスター風呂須太郎というのが。セリフの深さにしみじみ。マスターと是尾礼三郎は知り合いらしく、マスターの過去も気になる。そして、ラストで明かされる是尾礼三郎の現状も。浅野和之も出演中の『三谷かぶき 歌舞伎絶対続魂(ショウ・マスト・ゴー・オン) 幕を閉めるな』を観てきたばかりなので、「さっきあなた、歌舞伎座であんなこともこんなこともしてましたよね……」と、思う。しかし、全然違う役、違う演技なので、観ていて全然引きずらない。のが、すごい。
 久部本人はさんざんだと思う初日の芝居に感動して涙を流し、一生懸命感想を伝える江頭樹里(浜辺美波)がとてもかわいかった――ああいうカチューシャ、私も80年代にしていました。ジェシー才賀(シルビア・グラブ)の服装も、ああいう恰好している人いたいたと思ったし、倖田リカ(二階堂ふみ)の言動も、80年代のいい女ってこんな感じだったと思ったし。
 “もしがく”と『歌舞伎絶対続魂』、あわせて観るのが絶対お勧め!
 劇団クベシアター『夏の夜の夢』初日公演いよいよ開幕! しかし、CMが終わったら、舞台も終わっていた――はたして観られる日は来るのか。そして、謎めいた老人(浅野和之、さすがの存在感)の正体が「是尾礼三郎」というところで終わってしまった。気になる〜。来週につながる回。安心させてとリカ(二階堂ふみ)に頼まれバックハグをする久部三成(菅田将暉)のドキドキ表情が素敵でした。
 何だか次第に、軽快なメロディ(音楽=得田真裕)を耳にするだけで涙が。
 おばば(菊地凛子)は東宝ミュージカルに出たことがあったり、WS劇場のオーナーのジェシー才賀(シルビア・グラブ)は俳優座研究生第13期だったり、演劇関係者が多い八分坂。そして久部三成(菅田将暉)の演出、熱い! 熱すぎる! 雑巾をしぼりながら感情をしぼり出せと指導する人、初めて見ました(笑)&「できたじゃないか!」と倖田リカ(二階堂ふみ)に抱きつくのはセクハラです。おせっかいでもある。毛脛モネ(秋元才加)と彼女の息子の担任との会話にガンガン介入。しかし、それもあってモネは「これからはシェイクスピア俳優として生きていくの!」と啖呵を切る――涙。久部が演出助手の蓬莱省吾(神木隆之介)に愚痴って泣くシーンもよかった――何だか、一人の人間の自問自答を見ているようでもあり。蓬莱に「僕は久部さんの『夏の夜の夢』は好きです。おもしろいと思います」と言われた後の久部の、さまざまな感情が入り混じった表情に心つかまれた。
 パーライト(照明)がないので元いた劇団「天上天下」が公演中の小劇場ジョンジョンに取りに行く久部たち。このときスタッフ役で、三谷幸喜作品への出演も多い近藤芳正、ゲスト出演。しかし、人のものを取って来てはいけません。久部は自分たちへの恨みでやっているだけだとWS劇場でのゲネプロ中に言い放つ「天上天下」の主宰者・黒崎(小澤雄太)に、みんながいい演技でやり返す場面に、涙。その先鞭をつけたのが、ライサンダー役のトニー安藤(市原隼人)――うれしくて、その後トニーの背中を見ただけでさらに涙。「天上天下」のライサンダー役者にライサンダーの演技について聞きに行く、子犬のような目が愛らしすぎる。
 と、泣いてばかりおりますが、もちろん笑いもふんだんに盛り込まれており。リカとジェシーの「スリラー」ダンスが観られて、今回も盛りだくさん。毎週幸せ。
 パックを演じる久部の姿に、かつて菅田将暉が蜷川幸雄演出でロミオを演じたNINAGAWA×SHAKESPEARE LEGEND『ロミオとジュリエット』(2014)を思い出し。和解成ったモンタギュー家とキャピュレット家の人々を一人の若者が銃で皆殺しにするラストは、今年再演もされた『泣くロミオと怒るジュリエット2025』(作・演出=鄭義信。2020初演)のラスト(警官の一人が銃で皆殺し)に影響を与えていると個人的には思っており。
 演出家久部三成(菅田将暉)の熱血、好きになりました。しかし、それ言っちゃあかんやろな発言がいろいろと。倖田リカ(二階堂ふみ。第1話から大変魅力的)に灰皿を投げるなら小ぶりのにしてと言われ、元いた劇団からアルミの灰皿を失敬してきちゃうも、おばば(菊地凛子。80年代にこういう人、いた〜)に「灰皿は灰を捨てるためにある」と言われる姿に爆笑、そして涙(そう言えば椅子を投げる人もいたなと思い出し)。キャスティングだけで早く観たい! と思う久部版『夏の夜の夢』。トニー安藤(市原隼人)がライサンダーに配役されるも固まって小声なのがかわいい。でも、いざというとき実力発揮。久部の一言によって、お笑いコンビ「コントオブキングス」がボケとツッコミを入れ替えてみるくだりで涙涙涙。蓬莱省吾(神木隆之介)は先週観ていて……表情、三谷さん……と思う瞬間あり。そして先週のストリップ・シーンの毛脛モネ(秋元才加)がとても綺麗だった。みんなが懸命に生きる姿がいい。毎週、涙と笑いで忙しく。
 生きていたら、蜷川幸雄、本日で90歳!
 演出家久部三成を演じてそこはかとない狂気を感じさせる菅田将暉。ラストの、WS劇場(ウィリアム・シェイクスピアのイニシャルですが、「ワンダフルストリップ」の略だそうな)でシェイクスピアを上演しようとのスピーチに引き込まれて涙。毎週、舞台評論家としてめっちゃ喝入ります!
 脚本家三谷幸喜の半自伝的要素を含んだ、1984年の渋谷が舞台の青春群像劇。
 蜷川幸雄リスペクトの“荒ぶる演出家”久部三成(菅田将暉)が自分の作った劇団の劇団員たちと大喧嘩して追い出される冒頭から、大笑いしつつ胸を締め付けられるように涙し――1974年に蜷川幸雄が当時の市川染五郎(現・松本白鸚)主演の『ロミオとジュリエット』演出で商業演劇に進出した際、仲間たちと激しく対立したという有名なエピソードを思い出し。途中で久部の話に出てきた蜷川演出の『雨の夏、三十人のジュリエットが還ってきた』(1982年初演。宝塚歌劇団出身者が多く出演)は、その対立と和解とが盛り込まれた清水邦夫の手による戯曲で(清水・蜷川コンビの8年ぶりの復活となった)、劇中劇で上演されるのは『ロミオとジュリエット』。地下にある「小劇場ジョン・ジョン」にはかつて存在した「渋谷ジァン・ジァン」を思い出して懐かしく(『ジョン王』もかかっていたり?)。ジャズ喫茶の名前が「テンペスト」でマスター(小林薫)の名前が『テンペスト』の主人公プロスペローをもじったと思しき「風呂須太郎(ふろすたろう)」だったり、スナックの名前が『ペリクリーズ』をもじったと思しき「ペログリーズ」だったり(ウェイターのケントちゃんを演じる松田慎也は蜷川幸雄主宰の劇団「さいたまネクストシアター」出身)、固有名詞があれこれシェイクスピアもじりなのが楽しい。三谷自身の若いころがモデルの放送作家・蓬莱省吾を演じるのは神木隆之介。クライマックス、久部が照明を操って舞台上のダンサー倖田リカ(二階堂ふみ)を輝かせるところにぐっと来た。個性的な役者たちの演技が弾んでいて見応えあり。
 ちなみに、2016年に亡くなった蜷川幸雄は1935年10月15日生まれですが、『不適切にもほどがある!』(2024)の主人公・小川市郎(阿部サダヲ)が1935年10月16日生まれ。そして、あひるの出版社での新米記者時代、厳しく指導された雑誌の創刊編集長も1935年生まれなのだった。1984年、あひるは父の仕事の都合でカナダに住んでおり。自分がいなかった時期の日本の物語、毎週めちゃめちゃ楽しみです。