早いもので、今日は亡き父の七回忌でした。一緒に『いだてん』観ていたら、どんな感想が聞けたのかな…。ちなみに、母は毎週「元気出る〜!」と言っています。
 アントワープ・オリンピック16位で傷心の金栗四三(中村勘九郎)はベルリンをさまよっていた。そこで出会ったドイツのおなごたちは元気だった。戦争に負けても、夫を戦地で亡くしても、「くそったれ〜!!!」と叫んで槍投げ。つおい。四三さん、女子たちに紅一点ならぬ黒一点で妙に馴染んでいるのは、その人間的魅力ゆえか。
 東京の学校で、女子体育に取り組む。一度決意したら絶対ぶれない四三さん。…この人、また熊本に帰らないの〜?! 妻のスヤさん(綾瀬はるか)、オリンピックと同じ周期で四年に一度の大爆発タイム。そんなスヤさんを四三さん、後ろからハグして、…一緒にいてほしい…と。志ん生(ビートたけし)にも突っ込まれていたけど、今週の『いだてん』、何だかラヴラヴムード満開〜。
 アントワープ・オリンピックでの敗戦は、日本水泳界にも衝撃を与えていた。日本泳法、遅いじゃん!!! …昔見た模範演技を思い出す。優雅というか、遅いですよね…。水泳を止められている田畑正治(原勇弥)もショックで浜名湖にダイブ! その財布を失敬して、若き日の志ん生=孝蔵(森山未來)は東京に帰り着く。と、車屋の清さん(峯田和伸)と小梅(橋本愛)がちゃっかり所帯を持っていた。つきまとい続ける美川(勝地涼)に啖呵をきる小梅。はたして美川くんの反撃はあるのか?!
 東京府立第二高等女學校、通称「竹早」に勤務することになった四三。…実は。あひるは十日ほど前、十八回目の項でふれた『セーラー服と女学生』(内田静枝編著)の続編ともいうべき『ニッポン制服百年史』(森伸之監修 内田静枝編著)を読んでいた――正確には、両著とも、東京・弥生美術館の展覧会を機に発行された本である。私は小学校から高校まで、途中カナダに行っていて日本にいなかった三年間以外は同じ成蹊のセーラー服をずっと着て過ごしたのだけれども、二冊の本を読んで知ったのは、学校によってスカーフの結び方がいろいろと異なるということ。例えば、映画『セーラー服と機関銃』でヒロイン薬師丸ひろ子が着ていたセーラー服は当時彼女が通っていた都立八潮高校のものがベースなのだけれども、ここには「八潮巻き」という独特の結び方があるそうな。そして、竹早高校には「竹の子結び」というこれまた独特の結び方があると知り、いったいどんな結び方だろう…と検索していたら<「いだてん」金栗四三先生と竹早高校>というページにぶちあたって、おお、またもや偶然が〜とびっくりしていたのでした。大正中期、先行きを危ぶんだ足袋屋が学生服製造に乗り出していたことも、『ニッポン制服百年史』を読んで知り。
 さて。女子の園に赴いた四三先生、髪も伸ばし、女子体育に心たぎらせる熱血キャラに。…四三というより、修造? フィギュアスケートでも氷を溶かしかねない中継ぶり、画面の向こうからあひる家のお茶の間に直接話しかけてくるかのような熱い熱い男、あのナイスガイ松岡修造キャスターを思わせる四三のキャラ変なり。しかし。袴姿の女学生たち、四三先生に、冷たい。女子が体育なんてやって、お嫁に行けなくなったらどうしましょう! …「体育」を「勉強」に変えたバージョン、昔、よく聞いたような。でも、半世紀近く生きてきて、今思うことは。男子も女子も、体育でも勉強でも何でも、自分が好きでやりたいと思ったことを一生懸命やるのが一番! 
 テニスネットをひらりと超えて登場の永井道明先生(杉本哲太)に、香水をつけるようアドバイスされた四三。いつの間につけたテクニックなのか、女学生たちの心をくすぐり、槍を投げさせることに成功! そして、ドイツでも日本でも、おなごたちの叫びは同じだった。「くそったれ〜!!!」…思いを込めれば、飛距離も伸びる(笑)。そして、四三に影響されてか熱血キャラになったシマちゃん先生(杉咲花)には、自分と結婚しても仕事を続けてオリンピックにも出ればいいと言ってくれる増野(柄本佑)が。いい人と出会えてよかった! …でも。増野さん、もともとは今回登場せずの二階堂トクヨ先生(寺島しのぶ)のお見合い相手だったわけで。トクヨ先生の幸せを考えると、複雑。そして次回もおなごパワーが炸裂しそうな予感〜!
2019-06-02 23:59 この記事だけ表示
「レアな新種、キタ〜〜〜〜〜!!!!!」(「ポケモンgo」の)
 と、昨夜、夫と夜道をいきなり全力疾走することになったあひるであった(ポケモンがある場所に出現する時間は限られているため)。ジョギングをするわけではないので、全力で走る機会はめったにない。「遅れてきたら、私をおいて先に行っていいから」と夫には言った。しかし。何ということでしょう、最近時間を作って夜な夜な夫と母と散歩するように心がけていたからか、知らず知らずのうちに脚がものすごく鍛えられていた。走れる! 息が切れそうになっても、脚が自然と前に進む! 以前の自分より明らかに走れるようになっている! 途中、歩きも挟みましたが、約1.2キロをかなりのスピードで駆け抜け、無事レアポケモンをゲット。同時に自信もゲット。人間、鍛えれば向上できる…! どんどん前に進んでいける、それが走る楽しさだったりするのかな…と、『いだてん』について考えながら爆走していました。
 嘉納治五郎(役所広司)のクーベルタンへの手紙が功を奏し、マラソンはアントワープ・オリンピックの正式種目に! そして、岸清一(岩松了)のおかげで渡航費も支給されることに。監督は誰? ――ストックホルムのとき、監督をめぐってプチ争いを繰り広げるも、大森兵蔵にその座を奪われた体協の可児徳(古舘寛治)と永井道明(杉本哲太)の凸凹コンビ。今度こそ二人のうちのどちらかのはず、もしや? と可児が問うたところ、確かに永井は打診を受けていた。けれども。意外なことに、断っていた。自分はもはや、古い人間だからと。退こうとする人間の決意、その美学。明治男のせつなさが胸を打つ、杉本の演技。じゃあ監督、可児さん? と思いきや。アントワープに出発していったのは、辰野保というこれがいきなり初登場の人物だった。見送る人々の「バンザーイ」の声にまぎれ、一緒に手を上げつつ「辰野〜、誰だ〜」と可児さん。演じる古舘寛治の情けなくも実に微妙な表情。爆笑。可児さんと同じく「誰だ〜」と訝しみつつ、でも、その名字で東大出の弁護士ということはもしや…と思いきや、やはり、東京駅の建築で名高い建築家、辰野金吾の息子でした。
 船でアントワープへ向かう選手団――横浜・山下公園(今、バラ園が見頃!)に浮かぶ氷川丸のアールデコ様式の船内やデッキ等が画面に登場〜。そして。いざ下船というとき、金栗四三(中村勘九郎)は遂に皆に告白することとなる。養子縁組したため、自分は池部姓であること、妻と子供もいること。妻子の写真を見せてもらえたのは治五郎先生オンリー――口に両手をやって「キャ」と言わんばかりの反応を見せる役所広司がめちゃめちゃかわいい。しかし。他の人々は妻の正体わからずじまい。妻、誰だ〜。予想をめぐらす人々。
 ロンドン勤務となっていた三島弥彦(生田斗真)、自腹を切ってやって来た永井らの現地での励ましを受け、走る金栗と日本のいだてんたち。――しかし。世界の壁は厚かった。報告会。芳しい成績を上げられなかった日本選手団――金栗は、ハードワークがたたって足を痛めていたこともあり、16位だった。日本選手たちに、集まった記者から怒号が飛ぶ。「非国民!」――あひるも、あるとき、ある競技のワールドカップにあまり興味を示さなかったら、言われたことがあります。「藤本さんは非国民だ!」と――言った人、記者だったな、そう言えば。多様な声をすくい上げ、健闘をまずはたたえる、そんなジャーナリズムが理想かつ信条なり。
 怒号飛び交う中、一人、敢然と記者たちに言い返したのは、スヤ(綾瀬はるか)だった。「金栗四三の妻、誰だ〜」と皆に思われていた、その人。マラソンの選手たちが完走したことをたたえ、夫四三の走りは自分にとっては金メダルだと宣言する。強い人。ぶれない人。こういう人に支えられているからこそ、四三さんも己の道に邁進できるんだろうな…って、四三さん、傷心でさまようベルリンで女子槍投げにびっくりしてないで、早く日本へ、スヤさんのもとへ帰ってきてあげて〜。
 今回、青年時代の田畑政治が登場しましたが。最初、阿部サダヲ本人が演じているのかな…と思った。それくらい、この役を演じる原勇弥は、阿部の演技の特徴をとらえていた。一人の人物の人生を複数の人間で演じる場合、つながりがきちんと意識されていると、おお、やるなあ! と思う。そんな演技。
2019-05-26 23:59 この記事だけ表示
 …一週間があっという間だった! 仕事の合間に「旧新橋停車場 鉄道歴史展示室」に行き、嘉納治五郎や金栗四三がストックホルム・オリムピックに向けて旅立ったころの新橋停車場に思いを馳せており。
 今回のサブタイトルは『箱根駅伝』。――今年になって箱根にたびたび行っているあひるですが、当初は『いだてん』とはまったく関係ない理由であった。母校成蹊学園の寮が芦ノ湖畔にあり、小学校のころから夏の学校などでよく行っていたので、海賊船行き交う湖が懐かしくなって、久々に足を運んだところすっかりはまってしまったという。ちなみに、成蹊の寮の隣は小田急山のホテル。というのも、三菱財閥の第四代目総帥岩崎小彌太が成蹊学園の大パトロンで、岩崎家のゴルフ場の敷地を学園に寄贈、戦時中、生徒たちが疎開していたこともあったそうな。そして戦後、小彌太の別荘の跡地に山のホテルが建てられたという。子供のころは知らなかった歴史を、大人になって振り返ってみるといろいろ興味深く、近頃、箱根に関する本もいろいろ読んだりしていて。そこへ、『いだてん』箱根駅伝エピソード。
 第一次世界大戦ゆえ中止になったベルリン・オリンピック。けれども、次回はベルギーのアントワープで開催されることに! クーベルタンからの親書を、舌を出しながらみんなに見せる嘉納治五郎(役所広司)の表情が実にお茶目なり。次こそは! 心逸る金栗四三(中村勘九郎)。日本中を走ってしまって、もう日本には走る道がない、じゃあ次はアメリカ横断だ! …でも、それには、何人ものランナーで走った方が遠くまで行ける。そのためにも、富士山近い箱根で駅伝をやろう! …しかし。彼は池部家の養子なのだった。冷水浴をしようとする彼を、汲んだ水に映る故郷の人々が次々に責めさいなむ。なかでも強烈なのは義理の母の幾江(大竹しのぶ)。ピシャっとド迫力。…当初、正月返上も覚悟していた四三なれど、久々故郷に帰ることに。遠距離結婚だからか、いつまでも初々しいスヤ(綾瀬はるか)との夫婦姿。
 一方、治五郎先生には悩みが。…ない。アントワープ・オリンピックの種目の中に、マラソンがない! とてもじゃないが、張り切っている四三には言えない。どうする?
 そんな中、第一回目箱根駅伝、始まる。その模様を、古今亭志ん生(ビートたけし)の弟子、五りん(神木隆之介)が創作した「箱根駅伝落語」で聞かせるという趣向。駅伝同様、リレーしての落語で。でも。噺家、志ん生と五りんと兄弟子の今松(荒川良々)の三人しかいない…と思っていたら、何と。若き日の志ん生こと美濃部孝蔵を演じている森山未來が、志ん生の長男・金原亭馬生、そして次男・古今亭朝太として一人三役。シュール! 見事襷はつながれ、最後に志ん生が貫録で締めくくったところでドラマもまさに終わるという時間の流れがあまりに快感! 森山の演じ分けもナイスなり。
 先頭を走っていたのに、最後の最後で転んでしまった走者を、岸清一(岩松了)が駆け寄って励ます――マラソンにも駅伝にも冷ややかだったのに、治五郎先生の情熱に巻き込まれて、一緒になってゴールに駆け付けたら、心射抜かれてしまったのである。いつもニヒルでシニカルな風だった彼が、ランナーがゴールするまで懸命に励ます。そして彼は治五郎先生に言う。「マラソンのないオリンピックなんて…!」
 あひるも思う。マラソンのないオリンピックなんて! ――あひるの子供時代のクリシェで言えば、「クリープを入れないコーヒーなんて」と言うところ。オリンピックのたび、何々は正式競技から外れたとか話題になるけれども、マラソンと言えばオリンピックの絶対的な花形、数々のドラマが生まれる競技、ストックホルム・オリンピックでのフランシスコ・ラザロ選手の死を乗り越えた以上、外れる可能性があったとはよもや思ってもみなかった。――子供のころから見てきた、オリンピックのマラソン選手たちの力走を思い出す。最近では、2012年のロンドン・オリンピックのマラソンを実家で見ていて、「あ、あそこ行ったよね。あそこも映ったね」と母親とわいわいやっているのを、在りし日の父親が隣で聞いていた、そんな思い出が。
 知らなかった歴史を、大人になって振り返ってみるといろいろ興味深く。私の関心と『いだてん』で描かれている時代とが重なるのも、そこのところなのだろうと思う。今、現状はこうなっている。それはいったい、どのような歴史の流れによるものなのか。何か問題が生じたとしたら、歴史を遡ることによってその解決を図れないか、そんな意識があり。
 学生たちが事前に箱根の山を下見してズルして近道しようとしていたけれども、近隣の人たちが案内してくれちゃってズルできなかったとか、復路の朝、雪が積もって中止も考えられたけれども、湯治客まで雪かきしてくれて無事走れたとか、みんなを励ます四三が選手と一緒になって全五区一人で走っちゃったとか、今とは大違いの第一回箱根駅伝のエピソードにびっくり〜。でも。駅伝、いいですね。一人じゃ走れないような距離でも、大勢なら走れる。走り継いで行ける。遠くまで行ける。まるで人生のアナロジー。金栗四三や嘉納治五郎の情熱が、大勢を巻き込んでゆく。大きな渦を創り出してゆく。――この人たちがいたから、今がある。私は近代建築を見ていて何が好きかというと、「過去の時代とつながっている」という感覚を味わえる瞬間が好きなのである。そして、過去と今、自分と歴史とがつながっている感覚を味わえる大河ドラマも。
 初めて見た駅伝、マラソンに感動し、ランナーを必死に励まし、男泣きする、そんな岸清一を演じる岩松了の姿に心打たれた――彼が男泣きする前から泣いていた。そんな岸や、金栗、ランナーたちの姿に、治五郎先生はクーベルタンに手紙を書く。オリンピックにマラソンを…!
 次回も楽しみ!
2019-05-19 23:15 この記事だけ表示
 心はずむ笑いたっぷりの回!
 ベルリン・オリンピック中止も何のその、いだてん転じて暴走機関車と化し、日本全国を走り回る金栗四三(中村勘九郎)。出産を控え、放っておかれた感じでせつない妻スヤ(綾瀬はるか)。四三宅に居候中の美川秀信(勝地涼)に唆されて夫の日記を読み、その気持ちを知り――夢のシーン、綾瀬はるかの、クラシックな白いレースのドレスの似合うこと! 帰路についたスヤの乗った市電を走って追いかける四三、さすが足が速い。黙って安産御守をスヤの手に握らせる四三――「好き」とか「愛してる」とか、そういう言葉の出ない時代の、愛情表現。しかし。以前は夏目漱石に憧れていた美川氏、今度は竹久夢二に憧れて絵描きになりたいと言い出し、『ロミオとジュリエット』のセリフまで口にし。しかも、ヤクザの愛人となった小梅(橋本愛)と駆け落ちしていた。おかげで孝蔵(森山未來)に大トバッチリ。孝蔵の将来をひたすら信じる、友達思いの車引きの清さん(峯田和伸)。友情に篤い男を大熱演。先週、失意のいだてんを、走れ! と励ますシーンもよかったですばい。
 一方、東京女子高等師範学校では、女子の体育教育をめぐって論争が。イギリスから持ち込んだ“メイポールダンス”を生徒たちに踊らせる二階堂トクヨ(寺島しのぶ)。それをトホホの表情で見つめる恩師永井道明(杉本哲太)。生徒たちが着用するは、ハリマヤ黒坂幸作(三宅弘城)製作の、チュニック! ――ゴールデンウイーク、『セーラー服と女学生』(内田静枝編著)という本を読む機会があり、…世の中にはいろいろかわいい制服があるんだな…と眺めていた、その中に、「二階堂トクヨの日本女子体育専門学校では体操服がチュニック」という写真を偶然見つけ、『いだてん』に出てきたりするかな…と思ったばかりだったのですが、早速出てきてびっくり。自分の興味対象がそもそも『いだてん』の世界と非常に重なるところがあるのか、シンクロ率が凄いなと――。そしてそこに、アメリカかぶれの可児徳(古舘寛治)まで乱入。女子体育教育の現場、大混乱。それにしても。チュニック着用で一人、一心に踊り続けるトクヨの姿は、何かに取り憑かれたかのようであった…。
 …俺が作ってるのって、足袋なの? 靴なの? 悩める足袋職人黒坂幸作。しかし、彼は遂に自ら引いた一線を越え、底をゴムに。日光から東京まで130キロを一人走り抜いた四三の足元から運動足袋を脱がせ、勝利宣言。鬼気迫るその職人魂。
 日曜の夜に笑った笑った。さあ、来週も頑張るぞ!
2019-05-12 23:25 この記事だけ表示
 …こんなにちゃんと休んだの、いったいいつ以来だろう…というくらい、ゴールデンウイーク、休みました。5月3日の東京宝塚劇場の月組のGPに行き、後は読書三昧。後半には夫の一家と伊東で合流。川奈でひたすら相模湾を眺める他は何もしないという一日を過ごし。またまた富士山も見えました! ――東京に帰って来たら相変わらずのバタバタで、なかなか前回分観られず。今日は二本立てとまいりたく。
 金メダルが期待されたベルリン・オリンピックが中止となり、失意の金栗四三(中村勘九郎)。自分はいったい何のために走るのか――取り乱す四三に、上京してきた妻スヤ(綾瀬はるか)が水をぶっかけたところで、涙。いざというとき、四三をがっちり支えるしっかり者の奥さん。嘉納治五郎(役所広司)は、四三にかける言葉が見つからず、涙する――。…モスクワ・オリンピックに懸けた人々の無念を思った。出ていたら。メダルを取っていたら。人生は変わっていただろうか――。何もアスリートに限らない。人の人生はそんな問いの繰り返し。
 それでも。金栗四三という人は、前を向いて、明日の方を向いて、走っていく。そんな姿に、励まされて。
 …紐で結んじゃったら、それは足袋じゃなくて、靴なんじゃねえか。足袋職人としてのアイデンティティ・クライシスに悩まされる、ハリマヤの黒坂幸作(三宅弘城)。宮藤官九郎脚本が、ときに実はけっこう深刻なところを笑いでさらっと救ってくれるところ、三宅の演技がしっくりフィット。そして、いろいろ言いつつ調子に乗ってあれこれ改良してくれちゃいそうな気が非常にする。店のガラス戸に貼られたポスターも、何だかそんな感じ(笑)。
 自分のようなランナーが50人いたら。そんな発想から、駅伝を思いつく四三。50人もの金栗四三が走ったり体操したりする光景、大変シュールでした。そして。最近、金栗実次(中村獅童)が画面に映ると、池部幾江(大竹しのぶ)に盛大にドヤされるのを期待してしまう。いわんやこの日も。何だか名コンビとなりつつある二人。
 世界初の駅伝の最終ランナーとなり、走る四三。沿道で見守るスヤ。その目と目が合い――。走っているスピードだと目は合うのか。スケートだと早すぎて合わなそうな。え、劇場だとどうかって? それはもう、凄い人は二階席、いや、三階席…。いえ、その話はまたいずれ〜。
2019-05-12 23:22 この記事だけ表示
 皆様、十連休はいかがお過ごしですか。あひるは箱根で一泊してきました――昨夜は芦ノ湖畔よりお届けしておりました。昨日の夕方、箱根駅伝5区のコースをバスに揺られていたら、雨が途中から季節外れの雪に! ゴールデンウィーク初日にまさかの光景。そして本日、芦ノ湖畔から眺める富士山は雪化粧がひときわ美しく。帰りのバスの車窓から5区ゴール地点近くにある駅伝広場の「襷−TASUKI−」モニュメントを見て、帰京して『いだてん』を観たらば、金栗四三(中村勘九郎)が冒頭で富士山の美しさを愛でていて、偶然にびっくり。
 そして、今回から足袋職人の黒坂辛作役で三宅弘城登場〜。待ってました! ――三月中旬、あひるは、愛のレキシアター『ざ・びぎにんぐ・おぶ・らぶ』(原案・演出・上演台本=たいらのまさピコこと河原雅彦)を観て、思っていた。Only Love Hurts(面影ラッキーホール)の楽曲で構成された歌謡ファンク喜劇『いやおうなしに』(2015年、作=福原充則、演出=河原雅彦)なくして、『ざ・びぎにんぐ・おぶ・らぶ』は生まれ得なかっただろうなと。そして、思い出していた。『いやおうなしに』で三宅弘城が見せたダッチワイフの人形振り、すごかったな…と。そこへ、三宅弘城『いだてん』出演のニュース! 偶然にびっくり。その日から登場をずっと楽しみにしており。からっと明るくて、しみじみ人情深くて、いい! …いい役だな…としみじみ噛みしめて演じているのが伝わってきて、足袋職人の曾孫として、しみじみ。
 新婚早々妻スヤ(綾瀬はるか)と別居し、ベルリン・オリンピックへ向けてトレーニングの日々の四三。マラソンに賭けるあまり、上京してきたスヤに帰ってくれと言い放ち…。先週、四三さんがスヤさんに何だか冷たい感じだったので心配していましたが、むしろベタ惚れだった。安心した。だからこそせつない別居婚。妻を「スヤ」と呼ぶか「スヤさん」と呼ぶか逡巡する四三に泣き笑い。せっかく東京まで行った嫁を泊めないなんて、あんたんとこの弟はどうなっとる! と、金栗家に乗り込む池部幾江役の大竹しのぶ――祝! 菊田一夫演劇賞大賞受賞――のド迫力。何か言われる前から平身低頭の実次(中村獅童)。爆笑。四三からの手紙の文言の意味を解説してもらい、義母幾江を肩ポンするスヤ。おお、あひる憧れの“大竹しのぶ肩ポン”〜!
 一方、若き日の志ん生こと孝蔵(森山未來)は豪快な無銭飲食で牢屋行き。そこで師匠橘家円喬(松尾スズキ)の死を知る。師匠を思いながら、落語にはうるさいと自負する牢名主の前で熱演する孝蔵。孝蔵の思い出の中、噺を語る師匠――何かが降りてきているような、松尾スズキの噺。そして、志ん生を演じるビートたけしが、このところめちゃめちゃのってきているのを感じる! 数回前の、「そのころ、あたしはあたしであたしが心配だった」というたけしの語りがツボにはまって、よくよく思い出して噛みしめており。
 妻へのラヴを振り切ってまで走り続ける四三。しかし、戦局悪化によりベルリン・オリンピック中止のニュースが…。ストックホルム・オリンピックの競技の途中で走り続けられなくなったこと。そして、ベルリン・オリンピックの中止。…観ていて、「――あなただったら、こんな現実にある選手に、いったいどんな言葉をかけますか?――」と問われているかのように、胸を締め付けられるように感じるときがある――時空を超えて、そんな現実にある選手に言葉をかけるという難業に、脚本の宮藤官九郎は向き合い続けているわけである。
 ――私は、1972年生まれである。物心ついて最初にふれたオリンピック、それは、ソ連のアフガニスタン侵攻により、日本がボイコットした1980年のモスクワ・オリンピックだった。世界各国が参加するということになっているスポーツの大きな大会だけれども、紛争や政治的状況によっては必ずしもすべての国が参加するわけではない、それが、人生における、オリンピックに対する最初の認識なのである。そのことは、私のオリンピック観に大きな影響を与えているように思う。どこかで、――無事開催されてよかった――と、いつもまずは思う。昨年の平昌五輪もそう思っていた――1982年にウィンタースポーツの盛んなカナダに行ったので、1980年の次の1984年はロサンゼルスというよりはサラエボ、そしてカルガリーと、歴代冬季開催地の方をどうも先に思い出す(フィギュアスケートのブライアン・オーサー選手の全盛期!)。
 モスクワ・オリンピックの記憶が強くあるから、当たり前のようにきちんきちんと開催されている昨今を幸せに思うし、オリンピックを無事開催するために紛争はできるだけ避ける方向に世界全体がなっていって、そして、究極的には紛争もなくなっていったら…と思っていて。アホのように思われるかもしれないけれども、日々、「今、自分がどのように行動することで、世界から戦争をなくす方向に向かえるか」を考えて生きていたりするので。難しい。人はそもそもなぜ争うのかということから考えなくてはならない。けれども。
 今回の『いだてん』のサブタイトルは、『ベルリンの壁』。――1980年、モスクワ・オリンピック当時、世界はまだ西側諸国対東側諸国の冷戦下にあった。1982年にカナダに行って、アメリカのニュース番組も視るようになった影響で、冷戦構造をひときわ強く意識するようになった。そのころ、まさか冷戦が終わる日が来るなんて思ってもみなかった。けれども、1989年11月、ベルリンの壁は崩壊した――大学受験を控えた高校三年生だったので、「…これ、世界史で出題されたりする?!…」という非常に現実的なとまどいもあったけれども。
 だから、私は知っている。世界はときに大きく変わり得ることを。一人一人の思いが合わさって大きなうねりとなり得ることを、リアルタイムで知っている。だから、生きている時間の最中は、世界を少しでもよくする方向へ、微力ながらも努力していきたいし、ベルリンの壁を歴史的事実としてしか知らない若い世代にも、この世界は決してフィックスされているものではない、一人一人の力を合わせて変え得るものだということを伝えていきたい。後世の人々が、歴史書を紐解いて、「戦争なんて愚かなものが存在した時代があったんだね」と振り返ることができるようになったら――。
 つくづく、『いだてん』は、スポーツを通じて、大きなテーマと向き合っている作品だと思う。傷心の四三さんにスヤさんはどんな言葉をかけるのか、自分だったらどんな言葉をかけるのか考えながら、次週まで…。ちなみに、次の日曜日は家族行事もあり、更新は月曜か火曜となる見込みです。
2019-04-28 23:59 この記事だけ表示
 先週、九段下の「昭和館」の前を通りかかり、特別企画展「日本のオリンピック・パラリンピック〜大会を支えた人々〜」にふらっと立ち寄ってみたところ、これが、『いだてん』好きのためにあるような好企画! 金栗四三コーナーには子供用運動足袋。「前畑ガンバレ」の実況中継が録音されたレコード。幻の1940年東京大会へ沸く中で作られた、運動している子供の柄が施されたモダンな着物。そして、1964年東京大会関連展示。名グラフィック・デザイナー亀倉雄策の手によるポスターが、躍動感と迫力があってとてもかっこいい。展示を見ている間中、頭の中をずっと『いだてん』のテーマ曲が流れていました。子供のころカナダに住んだということもあり、オリンピックといえば冬季大会の思い出の方が断然多いあひるですが、2020年東京大会に向けてやっとちょっと気持ちが盛り上がってきました。企画展は5月6日まで〜。表に出ると、千鳥ヶ淵にはまだ桜の花が。今年の桜はあちこちでまだまだ長持ちしていて、そのたくましい生命力に元気をもらっており。
 さて、十五回目〜。金栗四三(中村勘九郎)に縁談持ち上がる。相手は庄屋の跡取り、池部重行に嫁入りしていた幼なじみのスヤ(綾瀬はるか)。息子重行に先立たれた池部幾江(大竹しのぶ)は、死にたいと思いつめたとき、生きようとするスヤの姿を見て、自分はこの嫁と一緒に生きていきたいと思ったと語る。大竹しのぶの演技の圧倒的な説得力。あひる、スヤと同じタイミングで落涙。それにしても。四三さんはスヤさんのこと、好きじゃないの? 恋とかに鈍いってこと? 何ともじれったい新婚の二人。そして、結婚してすぐさま別居。まあ、あひるも結婚して半年で別居し、結婚生活通算23年半のうち9年は別居している、別居婚のベテランですが。結婚の形はいろいろなり。
 4年後のオリンピックでの雪辱を誓い、炎天下に海岸で耐熱練習を行なう四三。――実は今日、オープニングのクレジットを見て、はっとしていた。彩の国シェイクスピア・シリーズなどでの女性役の名演技で知られる、蜷川幸雄組のベテラン、岡田正の名前が! いたいた〜。砂浜に倒れた四三を起き上がらせずに励まし続ける人々の中で、一人傘をかぶっていない人。
 一方、孝蔵(森山未來)は地方巡業中。浜松の地で、落語に妙に詳しそうな子供と出会い――。浜松湖での水泳に加わるその子、まーちゃん。ふんどし姿の子供たちが日本泳法を披露していましたが、成蹊小学校も、あひるが通っているころ、男の子たちは水泳というと、ふんどし。そして、学校で日本泳法の模範演技を見る機会もたびたびあったのですが、両手を縛られたまま泳ぐとか、子供のころは、それにいったい何の意味があるのかまったくよくわかっていなかった…。知識が増えて、いろいろな疑問が解決して、自分が大きな歴史の流れの中に生きていることがわかって。大人になって、よかった。
2019-04-21 22:53 この記事だけ表示
 先週はお休み、二週間ぶりにテーマ音楽が聞けてうきうき。
 ストックホルムから無事帰ってきた金栗四三(中村勘九郎)。その間に明治天皇が崩御し、元号は大正に変わっていた。オリムピックで棄権した彼を、周囲は温かく迎える…かと思いきや、「敗因は?」と鋭く立ちふさがった人が。二階堂トクヨ――「女史」と呼びたくなる、寺島しのぶの怪演。いきなりイギリスに留学してしまいましたが、今後の展開が気になる。
 海外視察を経て、四三より後に帰国した嘉納治五郎(役所広司)はといえば、…大日本体育協会の部屋で机が隅に追いやられており。会の新たなメンバーとして紹介され、にやっと笑う岸清一(岩松了)――代々木の「岸記念体育会館」にその名を残す人ですな。ちなみに私、岩松了が社長を演じている、名刺管理サービスのCMが好きでして。満員電車でも、車内モニターであのCMが流れていたりすると、なごむ。こちらの展開も、気になる。
 一方、若き日の志ん生こと孝蔵(森山未來)は、師匠橘家円喬(松尾スズキ)とは違う噺家について巡業に出ることに。師匠に捨てられたかのように思う孝蔵。そんな彼を見送るため、新橋ステイションまで走って追いかけてきた師匠。…泣けるねえ。師匠に言われた「フラがある」が、意味はよくわからないながらも孝蔵の心の支え。そして、足元をもつれさせながら去る師匠を見て、…師匠はフラフラ…と。『世界は一人』でも如何なく発揮されていた松尾スズキの不思議な身体性が活き。
 と、新橋ステイションがたびたび登場した今回でしたが。これからほどない大正三年には閉鎖されて貨物駅・汐留駅になり、西洋文明の窓口としての新橋が地盤沈下、「明治の新橋」から「大正の銀座」へと時代は移り変わっていく――という話をちょうど『銀座と資生堂』(戸矢理衣奈著)で読んだばかり。ラストでは四三の見合いも描かれ、『いだてん』の物語もますます新展開へ〜。
2019-04-14 23:39 この記事だけ表示
 家族で近所の川べりにお花見に出かけたところ、ふくろう軍団(今度は計十羽!)とまたもや遭遇したあひるであった。
 十三回目のサブタイトルは『復活』。ストックホルム・オリンピック、金栗四三が日射病で倒れ、完走できなかったマラソン。その際、命を落としたランナーがいた。フランシスコ・ラザロ。――その名から連想されるのは、『新約聖書』の『ヨハネによる福音書』11章、死して四日目にイエス・キリストによって復活を遂げたラザロである。
 死して人がこの世に残すもの。フランシスコ・ラザロが、金栗をはじめ、スポーツに携わる人々の心に残したもの。ストックホルム・オリンピックの日本選手団の監督を務め、その翌年、短い生涯を終えることとなる大森兵蔵が、人々の心に残したもの。――嘉納治五郎(役所広司)は、自分が身体が弱いがために、選手にかえって迷惑をかけて…と暗いことばかり口にする大森(竹野内豊)に対し、君の著したこの書物はすばらしい、遺産である、と言っていて、治五郎先生〜、大森さんまだ生きてます、と思いましたが、先生の大らかな人柄によって通る一言。
 …暗いことばかり言う人、周りも迷惑ですよね…。自戒をこめて。できるだけ書かないようにして、夫に言うだけにしているのですが。言うだけ言って、「…こんなにストレスかけて、この人、病気になったらどうしよう…」と、勝手なことを思ったりもするのですが。
 今夜、…自分だったら、期待を背負って走るも完走できなかった金栗四三にどんな言葉をかけるだろう…と思いながら観ていて、でも、次第に、…いや、最近むしろ、自分の方があちらこちらで励まされているな…と。
 一方、若き日の志ん生こと孝蔵(森山未來)は、あろうことか、初高座の日、お酒を一杯引っかけて現れる。酔っぱらって師匠・橘家圓喬(松尾スズキ)とやりあう様に、芸人としての一種の狂気をにじませた森山の演技。その噺を聞いている松尾の表情。――最近、痛感するのだけれども、この世界で、人と人とは、ときに思わぬ形の縁でつながっていて。それがどのように描かれていくのか、今後の展開も見逃せませぬ。
2019-03-31 23:48 この記事だけ表示
 とつけむにゃあ回だった。観終わって、涙顔でしばし放心状態。
 日本人として初めてオリンピックに参加した金栗四三は、日射病で倒れ、マラソンを完走できなかった。この史実をどう描くのか、非常に気になるところ、こう来たか! と…。
 四三(中村勘九郎)が走り出したあたりで、すでに胸が痛かった…。国とか責任とか、そんなもん背負わんでよか! と思って。――私は子供のころ、母親に円谷幸吉の話を聞かされて育った。あまりの期待の重圧に、「父上様、母上様、三日とろろ美味しうございました」で始まる遺書を残して、メキシコシティ五輪(1968)の前に自ら命を絶ったマラソン・ランナー。生まれる前の話だけれども、母親が繰り返し語った話があまりに心に深く刻まれていて――きっと彼女の心にも深く刻まれているのだろうと思う――、日本人とオリンピックを考えるとき、今でも真っ先に思うのが円谷幸吉のことなのである。だから、走り出した四三の姿に、円谷幸吉が重なって、胸が痛かった…。
 猛暑の中、走る四三――その道に、彼の心象風景、これまで彼が生きてきた道が重なっていく。彼は、ストックホルムを走りながら、熊本を、東京を走り、スウェーデンの人々に応援されながら、日本の家族や友達や仲間に応援されて走る。そこに、若き日の志ん生(森山未來)が、初高座を前に、車を引きながら東京を走って噺を稽古するシーンまで重なる。実にシュールな演出である。そして流れるはジャジーな音楽。――予定調和を越えている! と感じた。スポーツの報道を観ていても、…この先、こういう展開を求めているんだな…とその演出に感じることがあって、でも、人生には筋書きがないから、というか、天の筋書きはときに人の考える“物語”を軽々と超えていくから、想定していたのとちぐはぐの展開になって、…あ、今、困っているんだな…と思うときもあって。日射病で倒れて完走できなかったというのは、事前の想定を遥かに超えた展開である。そこに、「感動をありがとう」は、ない。
 朦朧と走る四三の前に、子供時代の“彼”(久野倫太郎)が現れる。――子供に演技をさせるのは難しいことだと思うから、申し訳ない話なのだけれども、私は、こまっしゃくれた子役芝居がものすごく苦手な人間である。その点、久野倫太郎は、実に自然な演技がいい。というか、彼から自然な表情を引き出している人々がすごい。子供時代の“彼”は、一度は四三を励まし導き、…そして、運命のあの岐路で、四三を間違った道へといざなう。人生の分岐点。あのとき、ああしていれば。こうしていれば。そんな人生の分岐点を一つも持たぬ人はいないだろう。金栗四三の場合、その分岐点による転回はあまりに大きく、あまりに残酷なものとなった。そんな人生の真実を描いて、美しい回だった…。
 次週のタイトルは『復活』。と聞いただけで、あの話とあの話にかけたダブルミーニングかな…と予想しているけれども。予想通りだったり、いい方に裏切られたり、人生と同じように、次週放映も楽しみにして。…せっかちなので、本心は待ちきれなくて、「早く次の日曜になれ!」と思っているのだけれども(笑)、ほころび始めた桜を眺めながら一週間を過ごします。
2019-03-24 23:59 この記事だけ表示