第一部ラストの回『種まく人』! 第二部が始まる前に何とか“いだてん”して追いついた〜。
 ――大変なのは、関東大震災の後だった。焼け野原となった東京の街。必死に生きる人々。
 …思う。天災も、戦争も、人の生活を変えてしまう。天災は、人の力でなくすことはできない。防ぎようを何とか考えるしかない。けれども、戦争は、人の力で防ぎ得る。
 嘉納治五郎先生(役所広司)は建設中の神宮競技場を避難所として提供。そして依然行方不明のシマちゃん(杉咲花)を四三(中村勘九郎)は探していた。家族、さすがに心配しているか…と思い、熊本に帰郷する四三。オリンピック周期と同じ、四年ぶりに。そんな四三を義母幾江(大竹しのぶ)が一喝!
「なーし帰ってきた!」
 妻スヤ(綾瀬はるか)が出産のときには帰って来なかったのに。東京が一番大変なときに帰ってくる男は、熊本が大変な時にはきっと熊本を捨てる意気地なしたい!
仲裁を促され、何となく大声で叫んでみる兄実次(中村獅童)。
「逆らわずして勝つ!」
 何も考えんととりあえず口から出たその言葉に、悟る四三。「そもそも人間は無力たい」そうと決まったら、早速東京へ! そういうときの決断はさすが“いだてん”。幾江は言う。“いだてん”とはそもそも、人々のために走って食い物を集めて走った神様ばい。そして東京に大量の援助物資を送る幾江。豪気。その物資を背負って東京の街を走るいだてん金栗四三。
 寄席はいつから開くのか…と孝蔵が思いきや、もう焼け跡でやっていた。…東日本大震災のときも、舞台をやるべきかやらざるべきか、議論になりましたが。まだ余震が多発していて、正直、日常生活にまだまだ不安があった時分、日本橋三越の三越劇場に若尾文子主演の舞台を観に行った。さすがにちらほら空席がある。しかし。いざ開演となったとき、「前の方の空いている席、きっと来られない人の分だよね〜」とばかりに、後ろからうわあーっと押し寄せる人々。ほとんどが高齢の方。少しでも前で若尾文子を観たい! そのパワーに圧倒されて、思った。どんな状況でも、舞台を観たい人はいる…と。「復興節」を早速作ってみんなで歌っていたのだって、そんな心の表れのような。ちなみに、日本橋三越はその少し前に耐震工事をしていたため、東日本大震災のときも、舞台のセットから花瓶一つ落ちなかったそうな。
 清さん(峯田和伸)小梅(橋本愛)夫婦のいる神宮のバラックで噺をする孝蔵。夜ともなれば、そこら中からすすり泣きが聞こえる。昼は気が張っているけれども、夜ともなれば、つらくて、涙してしまう…。笑っても泣いてもいいじゃねえかっていう落語をやってほしいと、孝蔵に語る清さん。
 大震災から一カ月。治五郎先生は、こんなときだからこそ! と、四三発案の復興運動会をみんなに提案する。スポーツマンは、スポーツによる復興を! やってきたその日。楽しく盛り上がる人々。――その姿に、思う。英語の”play”とは実に幅広く用いられる言葉である。遊びも”play”。 楽器の演奏も”play”。スポーツだって、”play tennis”とか”play basketball”と言う。“上演する”、“演じる”、そして“芝居”そのものも”play”。生きていく中で、人が集まり、楽しみや喜び、悲しみを分かち合うことの大切さ。そんな場の大切さ。
 フィギュアスケート、そして、『いだてん』について書くようになって、気づいた。みんな、よく観てるんだな…と。もちろん私は舞台評論家である。多くの人に少しでも多くの舞台を観てほしいと強く願っている。しかし、劇場だとなかなかすぐには足を運べない事情があることもわかる。公演中の舞台人が、同時期に公演している他の舞台を観に行くのは日程的に難しかったり、とか。でも、テレビで放映されているものなら、録画して、自分の好きな時間に観ることができる。…ああ、この人も羽生結弦選手、観てるんだな…とか、…この人は『いだてん』を毎週楽しみにしているんだな…とか、接点がますます増えて、多くの舞台人とさらに心のやりとりがしやすくなったな…と感じる今日この頃。
 そんな場としての、『いだてん』。マラソンなら、ここで折り返し地点。第二部も盛り上がって応援だ〜!
2019-06-30 19:50 この記事だけ表示
 ちなみに6月は舞台を23本観劇。『いだてん』でもときどき印象的に登場する富士山。「六月大歌舞伎」(歌舞伎座)夜の部『三谷かぶき 月光露針路日本』のラストを飾る富士山もまた美しかったのでした。
 さて、金栗四三(中村勘九郎)の免職撤回を求め、教室に立てこもった竹早女子たち。そんな彼女たちに四三は呼びかける。「腹ば減っとらんかね」。一同、ズコ。出てきたら豚鍋でもバナナでも大福でも好きなものを食わせてやる。乙女の空腹に訴えようという戦法である。しかし、足袋職人黒坂辛作の妻ちょう(佐藤真弓)は、四三先生に辞められたら困る〜と、食料と武器? をこっそり差し入れ。四三の計画、失敗。そして、シマちゃん先生(杉咲花)が女の身体はヤワじゃない! と発言したことから、村田富江(黒島結菜)とその父(板尾創路)が四三の免職撤回をかけて100メートル競走で戦うことに。負ける父。「もう一回やらせろ〜」。…大人げないなあ。結局6本走って全部娘の勝ち!
 嘉納治五郎先生(役所広司)は神宮競技場の計画を着々と進め、若き日の志ん生=孝蔵(森山未來)は人生で初めて夜逃げ。…初めてということは、二度目もあるのだろうか? そんな折。
 大正12年(1923年)9月1日。
 その日、四三は治五郎先生とシマちゃん先生と三人で神宮競技場を見に行くことにしていた。しかし、四三はシマちゃん先生に伝え忘れており、シマちゃん先生は浅草オペラ『お蝶夫人』を観るため、正午に浅草十二階で教え子と待ち合わせ。四三と治五郎先生は神宮へ。東京にオリンピックを招致し、愛する柔道を世界中に広めるためには150歳まで生きないと追いつかない! そのころには地球と火星とで交信できているかもしれないから、火星人にも柔道を叩きこまないといけない! と、神宮の空を見上げ、おーいおーいと叫んで火星との交信を試みる治五郎先生。…いや、スケールの大きな人はときに不思議ちゃんでもあり。
 そして、11時58分。――関東大震災。
 …揺れる浅草十二階の模型。
 東京中の酒を飲まないと! 酒屋に駆けつけ酒をあおる孝蔵。いや、酒飲みは発想が違う。酒飲みすぎて自分がふらふらしてるんだか、地面が揺れてるんだからわからねえや! …この人もまた、スケール大の不思議ちゃんなり。そして、東京の被害を語り出す。
 訛りゆえ、日本人であることを自警団に疑われる四三を救ったのは富江の父だった。四三は浅草の空を見上げる。…十二階が、八階のところで折れている。
 ――シマちゃん先生。
 探しに来たシマちゃんの夫増野(柄本佑)は泣く。今朝、初めて文句を言ってしまった。ご飯が固いと文句を言ってしまった。あんなこと、言わなければよかった…と。
 酒を飲むことをたしなめる妻おりん(夏帆)に向かい、「こんなときだから飲む」と言う孝蔵。酒飲みってホントこういうこと言いますよね…。亡くなった伯父も、アル中だった時分、飲酒について意見したら言ってました。「飲まなきゃやってられないときもある」と。
 震災噺の高座の後で、被災したおばあちゃんの写真を取り出す五りん(神木隆之介)。そこに写っているのは、シマちゃん。ということは、五りんは、シマちゃんの孫。
 私は、母方の祖母、愛子さんから関東大震災の話を聞いたことがある。大正6年(1917年)生まれの愛子さんは、銀行の支店長だった父に連れられ横浜、下関と日本中を転々としていたけれども、その時分は地元関西に落ち着いていた。9月1日は小学校の二学期の始業式だった。お昼時、学校で起きたことをお母さんに話していた。そしたら、揺れた。まさか、東京でそんな大きな地震が起きているとは思わなかった…と。
地震の話は笑いに持って行けない…とぼやく志ん生(ビートたけし)の嘆きはそのまま、作者の思いでもあろう。
 『いだてん紀行』でもやっていましたが、昨年、浅草の工事現場から十二階の遺構が出てきて、「赤レンガ、持ってっていいって〜」とツイッターで拡散されていて。忙しいのもあったし、何となく、積極的に駆けつける気が起きなかったんですよね…。この回を観て、自分の中で腑に落ちた。
2019-06-30 19:44 この記事だけ表示
 原稿19本、やっと終わった〜。ということで、時を巻き戻しまして。
 6月上旬、『ブラスト!:ザ・ミュージック・オブ・ディズニー』の公演プログラムの取材のため、山形県南陽市の赤湯温泉に赴いたあひる。…山形と仙台、近いよね…ということで、これまで行ったことのなかった仙台まで足を延ばしてきました。フィギュアスケートのオリンピックモニュメントと、今年の三月に亡くなった建築家の伯父(母の兄)が建築事務所のスタッフとして関わった東北大学附属図書館、そして、まだ見たことのない仙台の近代建築を見たいなと思い。…途中で、思った。『ファンタジー・オン・アイス』が仙台に行く週にあひるは神戸、神戸に行く週にあひるは仙台。まあ、週を入れ替えたところで観られないのですが、それはさておき。
 山形から仙台までは高速バスで一時間ほど。車中ではっと気づいた。『いだてん』を観ていて、…あ、この場面を書いているとき、平昌オリンピックの羽生結弦選手のことが作者の念頭にあったんだろうな…と感じることが、何回か。思えば、そこには、宮城県出身の宮藤官九郎が、宮城県出身の羽生結弦、同郷人に寄せる思いもあったんだな…と。
 一夜を過ごして翌日、早速、オリンピックモニュメントのある地下鉄東西線国際センター駅へ。ちなみに、出張先で充電できなくなったあひるの携帯ですが、国際センター駅で取り出してオリンピックモニュメントの写真を一枚撮った瞬間、ご臨終。そこから、日本のフィギュアスケート発祥の地「五色沼」まで、数分の道のりを歩いて行った。その名称に引っかかりを覚えながら。
 五色沼は、青葉城の堀の一部である。小さな池である。こちらにもフィギュアスケートにちなんだモニュメントがあり、そして、写真の添えられた説明版がある。大正13年(1924年)、五人並んで互いに手を組んで滑る、学生服姿の旧制第二高等学校の生徒たち――。
「…おじいちゃん!?」
 その写真を見た瞬間、はっとした。
 あひるの母方の祖父は明治43年(1910年)生まれ、会津若松出身で足袋屋の次男。飛び級して、仙台の二高、そして東京帝国大学に進んだ。その祖父が、下駄に刃をつけてスケートをしていた…という話を、子供のころ、スケートをするたびに母から聞かされた。私は、それは会津若松での出来事だと思っていた。でも。二高に進んでからは、仙台で、五色沼で、スケートをしていたかもしれない。その可能性に、仙台の地に足を運んで初めて気づいたのである。だいたい。福島県に縁のある人間にとって、「五色沼」といえば、裏磐梯にある美しい小湖沼群の地名としてなじみがある――だからこそ、国際センター駅から数分、私は引っかかりを覚えながら歩いていたのである。
 …しばし、その場で呆然としていた。
 そして、五色沼から徒歩数分のところに、東北大学附属図書館があるのだった――国際センター駅から歩いても徒歩数分である。私はそこで、伯父がその建物の建設に確かに関わった証拠を探した――書架の間を歩きながら、図書館と、人間の脳とのアナロジーについて考えていた――誰かがアクセスすることで初めて何かしらの意味をもつ、そんな情報のつまった小宇宙。伯父は、東京大学建築学科を卒業して鬼頭梓建築設計事務所に入所、そして、鬼頭梓設計の東北大学附属図書館が建設される際、東北大学の建築学科で一つ空いていた助手のポストに採用され、そこから施設部に出向するという形で、現地常駐スタッフとして関わっていたことがわかった――そうして建てられた図書館で、私はそんな情報にアクセスしていた。だいたいが、図書館の建物を見た瞬間、私は苦笑の内に大ウケしていたのだった――コンクリート打ち放しだ! と。伯父が自分の設計で東京・中野に建てた自邸もそうだったから。その手法ゆえに、湿気と雨漏りに大いに悩まされたあの白い四角い家――「コンクリート打ち放しだったよ」と報告したら、母も弟も苦笑していたくらい。内側もよく似ていた。上がったり下がったりする階段によって、幾層もの階層が構成される内部空間。
 ということで。その前日まで何の思いもなかった、仙台の国際センター駅の近くに、私にとって非常に感慨深いトライアングルが一気に形成されたというわけです。人生の不思議。
 それから、祖父が通った二高の跡地(東北大学旧雨宮キャンパス)や、東北大学片平キャンパスの近代建築群も見学。東北大学史料館に行った際には、偶然にもいきなり「ニールス・ボーア博士が…」なる映像が流れてびっくり。ニールス・ボーアといえば、20世紀を代表する理論物理学者の一人で、あひるが大好きな戯曲『コペンハーゲン』の登場人物。その彼が、戦前東北大学を訪れていたとは! さまざまな偶然の重なりに、ほとんど、…ああ、私はこの地に呼ばれたんだな…と思い。
 翌日は山形に戻り、「自転車節」では追っつかないようなスピードで観光レンタサイクルを飛ばして近代建築めぐり。いや、二年前に赤湯に出張した際も山形に足を延ばして見ましたが、いい近代建築は何回見てもいいのです。廃墟となっている「山形師範学校音楽練習室」の、人間の造形物と自然とが織り成す偶然の風化の美しさ。三島通庸が設計にも口を出したという「旧済生館病院本館(山形市郷土館)」には、彼の息子である三島弥彦の評伝本も置かれていました。
 …え? 『いだてん』と関係ない話が長い? いや、何がどこでどう関係しているかわからない、その不思議を語るのがこの作品の醍醐味の一つでは? 祖父の青春時代と『いだてん』の時代は重なっているわけだし。
 ということで、二十二回目『ヴィーナスの誕生』〜。
 若き日の志ん生=孝蔵(森山未來)は真打ちになるも相も変わらずの無頼ぶり。見かねた小梅(橋本愛)&清さん(峯田和伸)夫婦に世話され、おりん(夏帆)と結婚することに。一方、金栗四三(中村勘九郎)の思いが通じ、スポーツに熱中する「竹早」(東京府立第二高等女学校)の女生徒たち。憧れのフランスのテニス選手、スザンヌ・ランランばりのかわいいユニフォームを、ハリマヤの黒坂辛作(三宅弘城)のミシンを借りて製作〜。話題となったユニフォームは、シマちゃん先生(杉咲花)の夫増野(柄本佑)の勤務先である日本橋の百貨店のウィンドウも飾ることに。陸上選手の美しい脚に憧れ、走り始めた竹早女子。しかし、岡山でのテニス大会で、人見絹枝(菅原小春)と戦い、惨敗。絹枝を陸上競技にスカウトするシマちゃん先生。でも、女子として背が高いことがコンプレックスの絹枝は首を縦に振らない。――大正11年(1922年)、初めての女子の陸上大会。村田富江(黒島結菜)は足と靴をフィットさせるため、靴下を脱いでしまう。女生徒の素足に、光るカメラのフラッシュ。――それが、問題に。エロに紛れて浅草で売られる富江の素足写真――売っていたのは、怪しげな露天商となった美川(勝地涼)だった。おいおい(笑)。富江の父(板尾創路)は大憤慨、「男が目隠ししたらいい」と言い返した四三にさらに憤慨し、四三の免職の署名運動を。それに抗議し、教室に立てこもる竹早女子たちの叫び。
「女らしさって何ですか!」
 ――そういや、それから百年ほど経った今も、とある国の大統領が、自分のところで働く女性たちに対して「女らしい服装をしろ」と言ったとか言わないとか。それはさておき。さあ、四三先生、どうする?
 『いだてん紀行』で、二階堂トクヨ創設の日本女子体育大学に伝わる「トクヨのダンス」が実際に見られてよかった。ちょっとシュールに見えるあのダンス、実際にあるものだったんですね。いつか生で観てみたい。
2019-06-30 01:18 この記事だけ表示
 早いもので、今日は亡き父の七回忌でした。一緒に『いだてん』観ていたら、どんな感想が聞けたのかな…。ちなみに、母は毎週「元気出る〜!」と言っています。
 アントワープ・オリンピック16位で傷心の金栗四三(中村勘九郎)はベルリンをさまよっていた。そこで出会ったドイツのおなごたちは元気だった。戦争に負けても、夫を戦地で亡くしても、「くそったれ〜!!!」と叫んで槍投げ。つおい。四三さん、女子たちに紅一点ならぬ黒一点で妙に馴染んでいるのは、その人間的魅力ゆえか。
 東京の学校で、女子体育に取り組む。一度決意したら絶対ぶれない四三さん。…この人、また熊本に帰らないの〜?! 妻のスヤさん(綾瀬はるか)、オリンピックと同じ周期で四年に一度の大爆発タイム。そんなスヤさんを四三さん、後ろからハグして、…一緒にいてほしい…と。志ん生(ビートたけし)にも突っ込まれていたけど、今週の『いだてん』、何だかラヴラヴムード満開〜。
 アントワープ・オリンピックでの敗戦は、日本水泳界にも衝撃を与えていた。日本泳法、遅いじゃん!!! …昔見た模範演技を思い出す。優雅というか、遅いですよね…。水泳を止められている田畑政治(原勇弥)もショックで浜名湖にダイブ! その財布を失敬して、若き日の志ん生=孝蔵(森山未來)は東京に帰り着く。と、車屋の清さん(峯田和伸)と小梅(橋本愛)がちゃっかり所帯を持っていた。つきまとい続ける美川(勝地涼)に啖呵をきる小梅。はたして美川くんの反撃はあるのか?!
 東京府立第二高等女學校、通称「竹早」に勤務することになった四三。…実は。あひるは十日ほど前、十八回目の項でふれた『セーラー服と女学生』(内田静枝編著)の続編ともいうべき『ニッポン制服百年史』(森伸之監修 内田静枝編著)を読んでいた――正確には、両著とも、東京・弥生美術館の展覧会を機に発行された本である。私は小学校から高校まで、途中カナダに行っていて日本にいなかった三年間以外は同じ成蹊のセーラー服をずっと着て過ごしたのだけれども、二冊の本を読んで知ったのは、学校によってスカーフの結び方がいろいろと異なるということ。例えば、映画『セーラー服と機関銃』でヒロイン薬師丸ひろ子が着ていたセーラー服は当時彼女が通っていた都立八潮高校のものがベースなのだけれども、ここには「八潮巻き」という独特の結び方があるそうな。そして、竹早高校には「竹の子結び」というこれまた独特の結び方があると知り、いったいどんな結び方だろう…と検索していたら<「いだてん」金栗四三先生と竹早高校>というページにぶちあたって、おお、またもや偶然が〜とびっくりしていたのでした。大正中期、先行きを危ぶんだ足袋屋が学生服製造に乗り出していたことも、『ニッポン制服百年史』を読んで知り。
 さて。女子の園に赴いた四三先生、髪も伸ばし、女子体育に心たぎらせる熱血キャラに。…四三というより、修造? フィギュアスケートでも氷を溶かしかねない中継ぶり、画面の向こうからあひる家のお茶の間に直接話しかけてくるかのような熱い熱い男、あのナイスガイ松岡修造キャスターを思わせる四三のキャラ変なり。しかし。袴姿の女学生たち、四三先生に、冷たい。女子が体育なんてやって、お嫁に行けなくなったらどうしましょう! …「体育」を「勉強」に変えたバージョン、昔、よく聞いたような。でも、半世紀近く生きてきて、今思うことは。男子も女子も、体育でも勉強でも何でも、自分が好きでやりたいと思ったことを一生懸命やるのが一番! 
 テニスネットをひらりと超えて登場の永井道明先生(杉本哲太)に、香水をつけるようアドバイスされた四三。いつの間につけたテクニックなのか、女学生たちの心をくすぐり、槍を投げさせることに成功! そして、ドイツでも日本でも、おなごたちの叫びは同じだった。「くそったれ〜!!!」…思いを込めれば、飛距離も伸びる(笑)。そして、四三に影響されてか熱血キャラになったシマちゃん先生(杉咲花)には、自分と結婚しても仕事を続けてオリンピックにも出ればいいと言ってくれる増野(柄本佑)が。いい人と出会えてよかった! …でも。増野さん、もともとは今回登場せずの二階堂トクヨ先生(寺島しのぶ)のお見合い相手だったわけで。トクヨ先生の幸せを考えると、複雑。そして次回もおなごパワーが炸裂しそうな予感〜!
2019-06-02 23:59 この記事だけ表示
「レアな新種、キタ〜〜〜〜〜!!!!!」(「ポケモンgo」の)
 と、昨夜、夫と夜道をいきなり全力疾走することになったあひるであった(ポケモンがある場所に出現する時間は限られているため)。ジョギングをするわけではないので、全力で走る機会はめったにない。「遅れてきたら、私をおいて先に行っていいから」と夫には言った。しかし。何ということでしょう、最近時間を作って夜な夜な夫と母と散歩するように心がけていたからか、知らず知らずのうちに脚がものすごく鍛えられていた。走れる! 息が切れそうになっても、脚が自然と前に進む! 以前の自分より明らかに走れるようになっている! 途中、歩きも挟みましたが、約1.2キロをかなりのスピードで駆け抜け、無事レアポケモンをゲット。同時に自信もゲット。人間、鍛えれば向上できる…! どんどん前に進んでいける、それが走る楽しさだったりするのかな…と、『いだてん』について考えながら爆走していました。
 嘉納治五郎(役所広司)のクーベルタンへの手紙が功を奏し、マラソンはアントワープ・オリンピックの正式種目に! そして、岸清一(岩松了)のおかげで渡航費も支給されることに。監督は誰? ――ストックホルムのとき、監督をめぐってプチ争いを繰り広げるも、大森兵蔵にその座を奪われた体協の可児徳(古舘寛治)と永井道明(杉本哲太)の凸凹コンビ。今度こそ二人のうちのどちらかのはず、もしや? と可児が問うたところ、確かに永井は打診を受けていた。けれども。意外なことに、断っていた。自分はもはや、古い人間だからと。退こうとする人間の決意、その美学。明治男のせつなさが胸を打つ、杉本の演技。じゃあ監督、可児さん? と思いきや。アントワープに出発していったのは、辰野保というこれがいきなり初登場の人物だった。見送る人々の「バンザーイ」の声にまぎれ、一緒に手を上げつつ「辰野〜、誰だ〜」と可児さん。演じる古舘寛治の情けなくも実に微妙な表情。爆笑。可児さんと同じく「誰だ〜」と訝しみつつ、でも、その名字で東大出の弁護士ということはもしや…と思いきや、やはり、東京駅の建築で名高い建築家、辰野金吾の息子でした。
 船でアントワープへ向かう選手団――横浜・山下公園(今、バラ園が見頃!)に浮かぶ氷川丸のアールデコ様式の船内やデッキ等が画面に登場〜。そして。いざ下船というとき、金栗四三(中村勘九郎)は遂に皆に告白することとなる。養子縁組したため、自分は池部姓であること、妻と子供もいること。妻子の写真を見せてもらえたのは治五郎先生オンリー――口に両手をやって「キャ」と言わんばかりの反応を見せる役所広司がめちゃめちゃかわいい。しかし。他の人々は妻の正体わからずじまい。妻、誰だ〜。予想をめぐらす人々。
 ロンドン勤務となっていた三島弥彦(生田斗真)、自腹を切ってやって来た永井らの現地での励ましを受け、走る金栗と日本のいだてんたち。――しかし。世界の壁は厚かった。報告会。芳しい成績を上げられなかった日本選手団――金栗は、ハードワークがたたって足を痛めていたこともあり、16位だった。日本選手たちに、集まった記者から怒号が飛ぶ。「非国民!」――あひるも、あるとき、ある競技のワールドカップにあまり興味を示さなかったら、言われたことがあります。「藤本さんは非国民だ!」と――言った人、記者だったな、そう言えば。多様な声をすくい上げ、健闘をまずはたたえる、そんなジャーナリズムが理想かつ信条なり。
 怒号飛び交う中、一人、敢然と記者たちに言い返したのは、スヤ(綾瀬はるか)だった。「金栗四三の妻、誰だ〜」と皆に思われていた、その人。マラソンの選手たちが完走したことをたたえ、夫四三の走りは自分にとっては金メダルだと宣言する。強い人。ぶれない人。こういう人に支えられているからこそ、四三さんも己の道に邁進できるんだろうな…って、四三さん、傷心でさまようベルリンで女子槍投げにびっくりしてないで、早く日本へ、スヤさんのもとへ帰ってきてあげて〜。
 今回、青年時代の田畑政治が登場しましたが。最初、阿部サダヲ本人が演じているのかな…と思った。それくらい、この役を演じる原勇弥は、阿部の演技の特徴をとらえていた。一人の人物の人生を複数の人間で演じる場合、つながりがきちんと意識されていると、おお、やるなあ! と思う。そんな演技。
2019-05-26 23:59 この記事だけ表示
 …一週間があっという間だった! 仕事の合間に「旧新橋停車場 鉄道歴史展示室」に行き、嘉納治五郎や金栗四三がストックホルム・オリムピックに向けて旅立ったころの新橋停車場に思いを馳せており。
 今回のサブタイトルは『箱根駅伝』。――今年になって箱根にたびたび行っているあひるですが、当初は『いだてん』とはまったく関係ない理由であった。母校成蹊学園の寮が芦ノ湖畔にあり、小学校のころから夏の学校などでよく行っていたので、海賊船行き交う湖が懐かしくなって、久々に足を運んだところすっかりはまってしまったという。ちなみに、成蹊の寮の隣は小田急山のホテル。というのも、三菱財閥の第四代目総帥岩崎小彌太が成蹊学園の大パトロンで、岩崎家のゴルフ場の敷地を学園に寄贈、戦時中、生徒たちが疎開していたこともあったそうな。そして戦後、小彌太の別荘の跡地に山のホテルが建てられたという。子供のころは知らなかった歴史を、大人になって振り返ってみるといろいろ興味深く、近頃、箱根に関する本もいろいろ読んだりしていて。そこへ、『いだてん』箱根駅伝エピソード。
 第一次世界大戦ゆえ中止になったベルリン・オリンピック。けれども、次回はベルギーのアントワープで開催されることに! クーベルタンからの親書を、舌を出しながらみんなに見せる嘉納治五郎(役所広司)の表情が実にお茶目なり。次こそは! 心逸る金栗四三(中村勘九郎)。日本中を走ってしまって、もう日本には走る道がない、じゃあ次はアメリカ横断だ! …でも、それには、何人ものランナーで走った方が遠くまで行ける。そのためにも、富士山近い箱根で駅伝をやろう! …しかし。彼は池部家の養子なのだった。冷水浴をしようとする彼を、汲んだ水に映る故郷の人々が次々に責めさいなむ。なかでも強烈なのは義理の母の幾江(大竹しのぶ)。ピシャっとド迫力。…当初、正月返上も覚悟していた四三なれど、久々故郷に帰ることに。遠距離結婚だからか、いつまでも初々しいスヤ(綾瀬はるか)との夫婦姿。
 一方、治五郎先生には悩みが。…ない。アントワープ・オリンピックの種目の中に、マラソンがない! とてもじゃないが、張り切っている四三には言えない。どうする?
 そんな中、第一回目箱根駅伝、始まる。その模様を、古今亭志ん生(ビートたけし)の弟子、五りん(神木隆之介)が創作した「箱根駅伝落語」で聞かせるという趣向。駅伝同様、リレーしての落語で。でも。噺家、志ん生と五りんと兄弟子の今松(荒川良々)の三人しかいない…と思っていたら、何と。若き日の志ん生こと美濃部孝蔵を演じている森山未來が、志ん生の長男・金原亭馬生、そして次男・古今亭朝太として一人三役。シュール! 見事襷はつながれ、最後に志ん生が貫録で締めくくったところでドラマもまさに終わるという時間の流れがあまりに快感! 森山の演じ分けもナイスなり。
 先頭を走っていたのに、最後の最後で転んでしまった走者を、岸清一(岩松了)が駆け寄って励ます――マラソンにも駅伝にも冷ややかだったのに、治五郎先生の情熱に巻き込まれて、一緒になってゴールに駆け付けたら、心射抜かれてしまったのである。いつもニヒルでシニカルな風だった彼が、ランナーがゴールするまで懸命に励ます。そして彼は治五郎先生に言う。「マラソンのないオリンピックなんて…!」
 あひるも思う。マラソンのないオリンピックなんて! ――あひるの子供時代のクリシェで言えば、「クリープを入れないコーヒーなんて」と言うところ。オリンピックのたび、何々は正式競技から外れたとか話題になるけれども、マラソンと言えばオリンピックの絶対的な花形、数々のドラマが生まれる競技、ストックホルム・オリンピックでのフランシスコ・ラザロ選手の死を乗り越えた以上、外れる可能性があったとはよもや思ってもみなかった。――子供のころから見てきた、オリンピックのマラソン選手たちの力走を思い出す。最近では、2012年のロンドン・オリンピックのマラソンを実家で見ていて、「あ、あそこ行ったよね。あそこも映ったね」と母親とわいわいやっているのを、在りし日の父親が隣で聞いていた、そんな思い出が。
 知らなかった歴史を、大人になって振り返ってみるといろいろ興味深く。私の関心と『いだてん』で描かれている時代とが重なるのも、そこのところなのだろうと思う。今、現状はこうなっている。それはいったい、どのような歴史の流れによるものなのか。何か問題が生じたとしたら、歴史を遡ることによってその解決を図れないか、そんな意識があり。
 学生たちが事前に箱根の山を下見してズルして近道しようとしていたけれども、近隣の人たちが案内してくれちゃってズルできなかったとか、復路の朝、雪が積もって中止も考えられたけれども、湯治客まで雪かきしてくれて無事走れたとか、みんなを励ます四三が選手と一緒になって全五区一人で走っちゃったとか、今とは大違いの第一回箱根駅伝のエピソードにびっくり〜。でも。駅伝、いいですね。一人じゃ走れないような距離でも、大勢なら走れる。走り継いで行ける。遠くまで行ける。まるで人生のアナロジー。金栗四三や嘉納治五郎の情熱が、大勢を巻き込んでゆく。大きな渦を創り出してゆく。――この人たちがいたから、今がある。私は近代建築を見ていて何が好きかというと、「過去の時代とつながっている」という感覚を味わえる瞬間が好きなのである。そして、過去と今、自分と歴史とがつながっている感覚を味わえる大河ドラマも。
 初めて見た駅伝、マラソンに感動し、ランナーを必死に励まし、男泣きする、そんな岸清一を演じる岩松了の姿に心打たれた――彼が男泣きする前から泣いていた。そんな岸や、金栗、ランナーたちの姿に、治五郎先生はクーベルタンに手紙を書く。オリンピックにマラソンを…!
 次回も楽しみ!
2019-05-19 23:15 この記事だけ表示
 心はずむ笑いたっぷりの回!
 ベルリン・オリンピック中止も何のその、いだてん転じて暴走機関車と化し、日本全国を走り回る金栗四三(中村勘九郎)。出産を控え、放っておかれた感じでせつない妻スヤ(綾瀬はるか)。四三宅に居候中の美川秀信(勝地涼)に唆されて夫の日記を読み、その気持ちを知り――夢のシーン、綾瀬はるかの、クラシックな白いレースのドレスの似合うこと! 帰路についたスヤの乗った市電を走って追いかける四三、さすが足が速い。黙って安産御守をスヤの手に握らせる四三――「好き」とか「愛してる」とか、そういう言葉の出ない時代の、愛情表現。しかし。以前は夏目漱石に憧れていた美川氏、今度は竹久夢二に憧れて絵描きになりたいと言い出し、『ロミオとジュリエット』のセリフまで口にし。しかも、ヤクザの愛人となった小梅(橋本愛)と駆け落ちしていた。おかげで孝蔵(森山未來)に大トバッチリ。孝蔵の将来をひたすら信じる、友達思いの車引きの清さん(峯田和伸)。友情に篤い男を大熱演。先週、失意のいだてんを、走れ! と励ますシーンもよかったですばい。
 一方、東京女子高等師範学校では、女子の体育教育をめぐって論争が。イギリスから持ち込んだ“メイポールダンス”を生徒たちに踊らせる二階堂トクヨ(寺島しのぶ)。それをトホホの表情で見つめる恩師永井道明(杉本哲太)。生徒たちが着用するは、ハリマヤ黒坂辛作(三宅弘城)製作の、チュニック! ――ゴールデンウイーク、『セーラー服と女学生』(内田静枝編著)という本を読む機会があり、…世の中にはいろいろかわいい制服があるんだな…と眺めていた、その中に、「二階堂トクヨの日本女子体育専門学校では体操服がチュニック」という写真を偶然見つけ、『いだてん』に出てきたりするかな…と思ったばかりだったのですが、早速出てきてびっくり。自分の興味対象がそもそも『いだてん』の世界と非常に重なるところがあるのか、シンクロ率が凄いなと――。そしてそこに、アメリカかぶれの可児徳(古舘寛治)まで乱入。女子体育教育の現場、大混乱。それにしても。チュニック着用で一人、一心に踊り続けるトクヨの姿は、何かに取り憑かれたかのようであった…。
 …俺が作ってるのって、足袋なの? 靴なの? 悩める足袋職人黒坂辛作。しかし、彼は遂に自ら引いた一線を越え、底をゴムに。日光から東京まで130キロを一人走り抜いた四三の足元から運動足袋を脱がせ、勝利宣言。鬼気迫るその職人魂。
 日曜の夜に笑った笑った。さあ、来週も頑張るぞ!
2019-05-12 23:25 この記事だけ表示
 …こんなにちゃんと休んだの、いったいいつ以来だろう…というくらい、ゴールデンウイーク、休みました。5月3日の東京宝塚劇場の月組のGPに行き、後は読書三昧。後半には夫の一家と伊東で合流。川奈でひたすら相模湾を眺める他は何もしないという一日を過ごし。またまた富士山も見えました! ――東京に帰って来たら相変わらずのバタバタで、なかなか前回分観られず。今日は二本立てとまいりたく。
 金メダルが期待されたベルリン・オリンピックが中止となり、失意の金栗四三(中村勘九郎)。自分はいったい何のために走るのか――取り乱す四三に、上京してきた妻スヤ(綾瀬はるか)が水をぶっかけたところで、涙。いざというとき、四三をがっちり支えるしっかり者の奥さん。嘉納治五郎(役所広司)は、四三にかける言葉が見つからず、涙する――。…モスクワ・オリンピックに懸けた人々の無念を思った。出ていたら。メダルを取っていたら。人生は変わっていただろうか――。何もアスリートに限らない。人の人生はそんな問いの繰り返し。
 それでも。金栗四三という人は、前を向いて、明日の方を向いて、走っていく。そんな姿に、励まされて。
 …紐で結んじゃったら、それは足袋じゃなくて、靴なんじゃねえか。足袋職人としてのアイデンティティ・クライシスに悩まされる、ハリマヤの黒坂辛作(三宅弘城)。宮藤官九郎脚本が、ときに実はけっこう深刻なところを笑いでさらっと救ってくれるところ、三宅の演技がしっくりフィット。そして、いろいろ言いつつ調子に乗ってあれこれ改良してくれちゃいそうな気が非常にする。店のガラス戸に貼られたポスターも、何だかそんな感じ(笑)。
 自分のようなランナーが50人いたら。そんな発想から、駅伝を思いつく四三。50人もの金栗四三が走ったり体操したりする光景、大変シュールでした。そして。最近、金栗実次(中村獅童)が画面に映ると、池部幾江(大竹しのぶ)に盛大にドヤされるのを期待してしまう。いわんやこの日も。何だか名コンビとなりつつある二人。
 世界初の駅伝の最終ランナーとなり、走る四三。沿道で見守るスヤ。その目と目が合い――。走っているスピードだと目は合うのか。スケートだと早すぎて合わなそうな。え、劇場だとどうかって? それはもう、凄い人は二階席、いや、三階席…。いえ、その話はまたいずれ〜。
2019-05-12 23:22 この記事だけ表示
 皆様、十連休はいかがお過ごしですか。あひるは箱根で一泊してきました――昨夜は芦ノ湖畔よりお届けしておりました。昨日の夕方、箱根駅伝5区のコースをバスに揺られていたら、雨が途中から季節外れの雪に! ゴールデンウィーク初日にまさかの光景。そして本日、芦ノ湖畔から眺める富士山は雪化粧がひときわ美しく。帰りのバスの車窓から5区ゴール地点近くにある駅伝広場の「襷−TASUKI−」モニュメントを見て、帰京して『いだてん』を観たらば、金栗四三(中村勘九郎)が冒頭で富士山の美しさを愛でていて、偶然にびっくり。
 そして、今回から足袋職人の黒坂辛作役で三宅弘城登場〜。待ってました! ――三月中旬、あひるは、愛のレキシアター『ざ・びぎにんぐ・おぶ・らぶ』(原案・演出・上演台本=たいらのまさピコこと河原雅彦)を観て、思っていた。Only Love Hurts(面影ラッキーホール)の楽曲で構成された歌謡ファンク喜劇『いやおうなしに』(2015年、作=福原充則、演出=河原雅彦)なくして、『ざ・びぎにんぐ・おぶ・らぶ』は生まれ得なかっただろうなと。そして、思い出していた。『いやおうなしに』で三宅弘城が見せたダッチワイフの人形振り、すごかったな…と。そこへ、三宅弘城『いだてん』出演のニュース! 偶然にびっくり。その日から登場をずっと楽しみにしており。からっと明るくて、しみじみ人情深くて、いい! …いい役だな…としみじみ噛みしめて演じているのが伝わってきて、足袋職人の曾孫として、しみじみ。
 新婚早々妻スヤ(綾瀬はるか)と別居し、ベルリン・オリンピックへ向けてトレーニングの日々の四三。マラソンに賭けるあまり、上京してきたスヤに帰ってくれと言い放ち…。先週、四三さんがスヤさんに何だか冷たい感じだったので心配していましたが、むしろベタ惚れだった。安心した。だからこそせつない別居婚。妻を「スヤ」と呼ぶか「スヤさん」と呼ぶか逡巡する四三に泣き笑い。せっかく東京まで行った嫁を泊めないなんて、あんたんとこの弟はどうなっとる! と、金栗家に乗り込む池部幾江役の大竹しのぶ――祝! 菊田一夫演劇賞大賞受賞――のド迫力。何か言われる前から平身低頭の実次(中村獅童)。爆笑。四三からの手紙の文言の意味を解説してもらい、義母幾江を肩ポンするスヤ。おお、あひる憧れの“大竹しのぶ肩ポン”〜!
 一方、若き日の志ん生こと孝蔵(森山未來)は豪快な無銭飲食で牢屋行き。そこで師匠橘家円喬(松尾スズキ)の死を知る。師匠を思いながら、落語にはうるさいと自負する牢名主の前で熱演する孝蔵。孝蔵の思い出の中、噺を語る師匠――何かが降りてきているような、松尾スズキの噺。そして、志ん生を演じるビートたけしが、このところめちゃめちゃのってきているのを感じる! 数回前の、「そのころ、あたしはあたしであたしが心配だった」というたけしの語りがツボにはまって、よくよく思い出して噛みしめており。
 妻へのラヴを振り切ってまで走り続ける四三。しかし、戦局悪化によりベルリン・オリンピック中止のニュースが…。ストックホルム・オリンピックの競技の途中で走り続けられなくなったこと。そして、ベルリン・オリンピックの中止。…観ていて、「――あなただったら、こんな現実にある選手に、いったいどんな言葉をかけますか?――」と問われているかのように、胸を締め付けられるように感じるときがある――時空を超えて、そんな現実にある選手に言葉をかけるという難業に、脚本の宮藤官九郎は向き合い続けているわけである。
 ――私は、1972年生まれである。物心ついて最初にふれたオリンピック、それは、ソ連のアフガニスタン侵攻により、日本がボイコットした1980年のモスクワ・オリンピックだった。世界各国が参加するということになっているスポーツの大きな大会だけれども、紛争や政治的状況によっては必ずしもすべての国が参加するわけではない、それが、人生における、オリンピックに対する最初の認識なのである。そのことは、私のオリンピック観に大きな影響を与えているように思う。どこかで、――無事開催されてよかった――と、いつもまずは思う。昨年の平昌五輪もそう思っていた――1982年にウィンタースポーツの盛んなカナダに行ったので、1980年の次の1984年はロサンゼルスというよりはサラエボ、そしてカルガリーと、歴代冬季開催地の方をどうも先に思い出す(フィギュアスケートのブライアン・オーサー選手の全盛期!)。
 モスクワ・オリンピックの記憶が強くあるから、当たり前のようにきちんきちんと開催されている昨今を幸せに思うし、オリンピックを無事開催するために紛争はできるだけ避ける方向に世界全体がなっていって、そして、究極的には紛争もなくなっていったら…と思っていて。アホのように思われるかもしれないけれども、日々、「今、自分がどのように行動することで、世界から戦争をなくす方向に向かえるか」を考えて生きていたりするので。難しい。人はそもそもなぜ争うのかということから考えなくてはならない。けれども。
 今回の『いだてん』のサブタイトルは、『ベルリンの壁』。――1980年、モスクワ・オリンピック当時、世界はまだ西側諸国対東側諸国の冷戦下にあった。1982年にカナダに行って、アメリカのニュース番組も視るようになった影響で、冷戦構造をひときわ強く意識するようになった。そのころ、まさか冷戦が終わる日が来るなんて思ってもみなかった。けれども、1989年11月、ベルリンの壁は崩壊した――大学受験を控えた高校三年生だったので、「…これ、世界史で出題されたりする?!…」という非常に現実的なとまどいもあったけれども。
 だから、私は知っている。世界はときに大きく変わり得ることを。一人一人の思いが合わさって大きなうねりとなり得ることを、リアルタイムで知っている。だから、生きている時間の最中は、世界を少しでもよくする方向へ、微力ながらも努力していきたいし、ベルリンの壁を歴史的事実としてしか知らない若い世代にも、この世界は決してフィックスされているものではない、一人一人の力を合わせて変え得るものだということを伝えていきたい。後世の人々が、歴史書を紐解いて、「戦争なんて愚かなものが存在した時代があったんだね」と振り返ることができるようになったら――。
 つくづく、『いだてん』は、スポーツを通じて、大きなテーマと向き合っている作品だと思う。傷心の四三さんにスヤさんはどんな言葉をかけるのか、自分だったらどんな言葉をかけるのか考えながら、次週まで…。ちなみに、次の日曜日は家族行事もあり、更新は月曜か火曜となる見込みです。
2019-04-28 23:59 この記事だけ表示
 先週、九段下の「昭和館」の前を通りかかり、特別企画展「日本のオリンピック・パラリンピック〜大会を支えた人々〜」にふらっと立ち寄ってみたところ、これが、『いだてん』好きのためにあるような好企画! 金栗四三コーナーには子供用運動足袋。「前畑ガンバレ」の実況中継が録音されたレコード。幻の1940年東京大会へ沸く中で作られた、運動している子供の柄が施されたモダンな着物。そして、1964年東京大会関連展示。名グラフィック・デザイナー亀倉雄策の手によるポスターが、躍動感と迫力があってとてもかっこいい。展示を見ている間中、頭の中をずっと『いだてん』のテーマ曲が流れていました。子供のころカナダに住んだということもあり、オリンピックといえば冬季大会の思い出の方が断然多いあひるですが、2020年東京大会に向けてやっとちょっと気持ちが盛り上がってきました。企画展は5月6日まで〜。表に出ると、千鳥ヶ淵にはまだ桜の花が。今年の桜はあちこちでまだまだ長持ちしていて、そのたくましい生命力に元気をもらっており。
 さて、十五回目〜。金栗四三(中村勘九郎)に縁談持ち上がる。相手は庄屋の跡取り、池部重行に嫁入りしていた幼なじみのスヤ(綾瀬はるか)。息子重行に先立たれた池部幾江(大竹しのぶ)は、死にたいと思いつめたとき、生きようとするスヤの姿を見て、自分はこの嫁と一緒に生きていきたいと思ったと語る。大竹しのぶの演技の圧倒的な説得力。あひる、スヤと同じタイミングで落涙。それにしても。四三さんはスヤさんのこと、好きじゃないの? 恋とかに鈍いってこと? 何ともじれったい新婚の二人。そして、結婚してすぐさま別居。まあ、あひるも結婚して半年で別居し、結婚生活通算23年半のうち9年は別居している、別居婚のベテランですが。結婚の形はいろいろなり。
 4年後のオリンピックでの雪辱を誓い、炎天下に海岸で耐熱練習を行なう四三。――実は今日、オープニングのクレジットを見て、はっとしていた。彩の国シェイクスピア・シリーズなどでの女性役の名演技で知られる、蜷川幸雄組のベテラン、岡田正の名前が! いたいた〜。砂浜に倒れた四三を起き上がらせずに励まし続ける人々の中で、一人傘をかぶっていない人。
 一方、孝蔵(森山未來)は地方巡業中。浜松の地で、落語に妙に詳しそうな子供と出会い――。浜松湖での水泳に加わるその子、まーちゃん。ふんどし姿の子供たちが日本泳法を披露していましたが、成蹊小学校も、あひるが通っているころ、男の子たちは水泳というと、ふんどし。そして、学校で日本泳法の模範演技を見る機会もたびたびあったのですが、両手を縛られたまま泳ぐとか、子供のころは、それにいったい何の意味があるのかまったくよくわかっていなかった…。知識が増えて、いろいろな疑問が解決して、自分が大きな歴史の流れの中に生きていることがわかって。大人になって、よかった。
2019-04-21 22:53 この記事だけ表示